本の虫と文字の虫とその周辺 (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
「え、いないんですか?」
自分でも驚くほど素っ頓狂な声が出た。
それは他から聞いても素っ頓狂な声だったみたいで和泉さんがふとこちらを見て答える。
「うん」
あぁそんなあっさり。
「土曜日の夜ですよ?」
「うん」
「へぇー……和泉さんがおうちにいないとかめずらしい」
「ちょっと飲んでくる。さすがにサークルにも顔出さないと除籍だからな…」
「文芸サークルでしたっけ?」
「そう」
「飲み会かぁー」
和泉さんはお酒飲めるんだろうか。
飲んだらどうなるんだろう。
私の前では飲まないからよくわからない。
聞けばすぐ答えが手に入るのかもしれないけどそれはしたくなかった。
それはあたしが直接見たい。
発見はおもしろいから。
でも今おもしろくない。
「飲み会ねー……」
「ん?」
「や、楽しそうでいいなぁと思って」
きっと女の人もくるんだろうなぁ。
私より少しだけ、少しだけ大人の。
「付き合いだよ」
「大学生浮かれてる……」
「浮かれてないって。大人だからいろいろあるだけ」
「………」
「大人だから」というあたしとの線引き。
なんっだそれ。
あたしだって来年にはそっち側なのに。
この仲間はずれ。
2人の間で起こる仲間はずれってただの無関係なんじゃ。
無関係?仲間はずれより数段おそろしい言葉!
でも無関係なのか。
こどもの私には。
初めてだなぁ。
自分が高校生であることが、なんだか嫌になったのは。
そんなこと今まで1度もなかったのに。
この小さな不満。
何かがとてつもなく苦しい。
嫉妬にしたって苦しすぎる。
ちょっと胃のあたりがきもちわるい。
「……どうかしたのか?」
慌てて首を横に振る。
心配そうに覗きこんでくる和泉さんの顔を見て、
きゅっとまた心の奥が絞られる。
「行かないで」って言ったら、
言うとおりにしてくれるだろうか?
「………」
わからなくってひたすら首を振った。
なんでもないなんでもないなんでもない。
3回唱えて言い聞かせた。
言い聞かせたくらいだからそれは嘘だと自覚している。
嘘です。なんでもあるんです。
行って欲しくないです。
正直に言えたら成長なのか。
抑えきれず言ってしまったら退化なのか。
どちらともつかず正解がわからない。
もし私の願いが受け入れられても、
縛ったことをどこかで後悔してしまいそうで。
だから私は、
まだ私の様子をうかがう和泉さんにむかって、
だらしなく笑ってこううそぶくだけだ。
「早く大人になったらいいのに」
七色カクテル
ひとりの駆け引き。
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「ねぇ」
「なんだ?」
「ほら」
「………なんだよこれ」
「まぁ聞いてよ」
「ここにちょうお高いチョコレートがあるわ。高級チョコ専門店の限定品。並んだのよ。しかもあなたの好きなウイスキーボンボン」
「で。こっちが手作りチョコ。でもただの手作りじゃないわ。あたしの手作り。めったに手作りとかしないあたしの手作り」
見栄えだけなら決定的なチョコを並べる。
「さぁどっち」
「……………なぁ」
「なによ」
「俺はこのかんじ前にもあったと思うんだが」
「なにそれいつの話?気の所為よ。ほら、選んで?」
「……ここは手作り選ぶとこだってのはわかるんだが。正直俺ウイスキーボンボンが……」
「ん?」
「いやな、ウイスキーボンボン……」
「とればいいじゃない。でも、そしたら手作りのはなしね」
「………」
「どっちなのよ」
「お前ずるいよな」
「そうね」
「ほんとずるいよ」
手作りチョコをつまむ播磨と、
その横で美味しそうにウイスキーボンボンを頬張る伊予。
ビタースイートハニー
(手作りチョコはなぜかしょっぱかった。)
スピンオフがシンデレラだったので
本編は白雪で(*´`)←
「白雪姫ってばかですよね」
フォークに刺した林檎をシャリシャリと音を発てて食す。
甘い汁が口の中で溶け出した。おいしい。
やっぱり林檎は兎に限る。味が変わるわけじゃあないんだけど。
「……それ差し入れだって言ってなかったっけ」
「だって和泉さんがなかなか食べないからー。変色しちゃったら兎が報われないですよ」
「………」
「ちょっと休憩して食べたらどうですか?」
ほら。とフォークを渡すと受け取ってくれた。
和泉さんは書くことに熱中してしまうと平気で食事を抜かすから、困る。
ふたりで黙々と林檎を食べていると、和泉さんが言った。
「白雪姫がなんだって?」
「え?」
「言ってただろさっき」
「あぁ。だから、白雪姫って、ばかだなぁって」
「………なんで怪しい老婆から林檎をもらうんだ。ばかだな。…って意味?」
「や、そういう意味じゃないんですけど」
「違うのか」
「わたし、白雪姫は知ってたと思うんです。林檎には毒があるって」
「え?」
見るからに怪しい老婆から手渡された林檎がまともなものでないと気付けないほど、白雪姫が鈍感だったとは思えない。
その林檎には毒がある。と、気づいていたとして。
「じゃあなんで食べたんだ」
「なんででしょうねぇ」
「きみにはわかる、みたいなかんじだな」
「憶測ですけど」
「そんなのわかってる。それで?」
「え?」
「答えはなんなんだ」
視線を最後の一個の林檎に落して、
そこにサクリとフォークを突き刺す。
チェックメイトのときのような優越感。
(チェスとかしたことないけど)
「王子様に会いたかったんじゃないかなって」
林檎の甘さが体内に溶け込んだ頃、
和泉さんは口を開いた。
「計算高い白雪姫だな」
わたしもそう思う。
物語の展開を知っているヒロインなんて、とか、
そういうとこ突っつかれるとこの憶測はもう何でもないけど。
でも和泉さんは壊さなかった。
野暮なことしないで、その計算高い白雪姫を受け入れたのだ。
なんだか嬉しかった。
最後の一こあげればよかった。
「結局わたしのほうがいっぱい食べてしまいました」
「ほんとだ」
「この林檎おいしかったですねぇ」
「くち、ついてるぞ」
「は?」
「林檎の」
「………」
最後の一こは、あげなくてよかったのかもしれない。
今こんなふうにくちびるに触れるのが、
もしかして指じゃなかったとしたら。
そんなことになると知っていれば、
わたしだって毒りんごをかじるんだろう。
ばかな白雪姫。
でもよくわかります。
グリーンナップル
(結局はわたしもばかなんだよなぁ。)
本編は白雪で(*´`)←
「白雪姫ってばかですよね」
フォークに刺した林檎をシャリシャリと音を発てて食す。
甘い汁が口の中で溶け出した。おいしい。
やっぱり林檎は兎に限る。味が変わるわけじゃあないんだけど。
「……それ差し入れだって言ってなかったっけ」
「だって和泉さんがなかなか食べないからー。変色しちゃったら兎が報われないですよ」
「………」
「ちょっと休憩して食べたらどうですか?」
ほら。とフォークを渡すと受け取ってくれた。
和泉さんは書くことに熱中してしまうと平気で食事を抜かすから、困る。
ふたりで黙々と林檎を食べていると、和泉さんが言った。
「白雪姫がなんだって?」
「え?」
「言ってただろさっき」
「あぁ。だから、白雪姫って、ばかだなぁって」
「………なんで怪しい老婆から林檎をもらうんだ。ばかだな。…って意味?」
「や、そういう意味じゃないんですけど」
「違うのか」
「わたし、白雪姫は知ってたと思うんです。林檎には毒があるって」
「え?」
見るからに怪しい老婆から手渡された林檎がまともなものでないと気付けないほど、白雪姫が鈍感だったとは思えない。
その林檎には毒がある。と、気づいていたとして。
「じゃあなんで食べたんだ」
「なんででしょうねぇ」
「きみにはわかる、みたいなかんじだな」
「憶測ですけど」
「そんなのわかってる。それで?」
「え?」
「答えはなんなんだ」
視線を最後の一個の林檎に落して、
そこにサクリとフォークを突き刺す。
チェックメイトのときのような優越感。
(チェスとかしたことないけど)
「王子様に会いたかったんじゃないかなって」
林檎の甘さが体内に溶け込んだ頃、
和泉さんは口を開いた。
「計算高い白雪姫だな」
わたしもそう思う。
物語の展開を知っているヒロインなんて、とか、
そういうとこ突っつかれるとこの憶測はもう何でもないけど。
でも和泉さんは壊さなかった。
野暮なことしないで、その計算高い白雪姫を受け入れたのだ。
なんだか嬉しかった。
最後の一こあげればよかった。
「結局わたしのほうがいっぱい食べてしまいました」
「ほんとだ」
「この林檎おいしかったですねぇ」
「くち、ついてるぞ」
「は?」
「林檎の」
「………」
最後の一こは、あげなくてよかったのかもしれない。
今こんなふうにくちびるに触れるのが、
もしかして指じゃなかったとしたら。
そんなことになると知っていれば、
わたしだって毒りんごをかじるんだろう。
ばかな白雪姫。
でもよくわかります。
グリーンナップル
(結局はわたしもばかなんだよなぁ。)
ちょっと小話。
「上総、髪伸びたね」
「でしょ?早くもっと伸びないかなあ」
毛先をくるくると指に絡める。少しくせのある黒い髪が、巻き付いてはするすると離れていく。ちょっと前までは伸びたらすぐ切ってたから、めったにこんなことも出来なかった気がする。
「なんで伸ばしたいの?」
「だって!」
「…だって?」
待ってました、すごく聞いてほしかったんです!みたいなキラキラした目で、顔で、ハキハキした口調で語られた、髪を伸ばしたい理由に心の中で苦笑いしてしまった。だってあまりにもわかりやすすぎて、こっちが恥ずかしくなりそう。
「…それって、」
「なになに?」
またキラキラした目で見られたから、あたしなんでそんなことするかわかったよ、とだけ言って大事なことは言わなかった。
本当に、あの作家は見え見えの婉曲表現が好きなんだから。
「教えてよー!」
「自分で訊いたら?」
さんざん困ればいいんだ。
ちっともうらやましいなんて思ってない、断じて思ってない!
テスト前は勉強教えてもらうって行くし、テスト終わったらまた毎日通うし、もう一緒に住めば?とかたまに思ってたりして。
でも上総に言っても、なんで?とか言われそうだ。
******
「なんでお前の小説ミディアムの子ばっかなの」
「何が?」
「髪型」
「…かわいいから」
「あの子が?」
「……髪型が」
「(照れんなよ!空気微妙になるから!)」
「上総、髪伸びたね」
「でしょ?早くもっと伸びないかなあ」
毛先をくるくると指に絡める。少しくせのある黒い髪が、巻き付いてはするすると離れていく。ちょっと前までは伸びたらすぐ切ってたから、めったにこんなことも出来なかった気がする。
「なんで伸ばしたいの?」
「だって!」
「…だって?」
待ってました、すごく聞いてほしかったんです!みたいなキラキラした目で、顔で、ハキハキした口調で語られた、髪を伸ばしたい理由に心の中で苦笑いしてしまった。だってあまりにもわかりやすすぎて、こっちが恥ずかしくなりそう。
「…それって、」
「なになに?」
またキラキラした目で見られたから、あたしなんでそんなことするかわかったよ、とだけ言って大事なことは言わなかった。
本当に、あの作家は見え見えの婉曲表現が好きなんだから。
「教えてよー!」
「自分で訊いたら?」
さんざん困ればいいんだ。
ちっともうらやましいなんて思ってない、断じて思ってない!
テスト前は勉強教えてもらうって行くし、テスト終わったらまた毎日通うし、もう一緒に住めば?とかたまに思ってたりして。
でも上総に言っても、なんで?とか言われそうだ。
******
「なんでお前の小説ミディアムの子ばっかなの」
「何が?」
「髪型」
「…かわいいから」
「あの子が?」
「……髪型が」
「(照れんなよ!空気微妙になるから!)」
自分の仕事の本質が何なのか、十分理解している。
だが、
「言霊」という言葉が存在するように、時に言葉は魂を宿って生きる。
その生き方は、力となって活力を与えるか、それとも刃となって、身を傷つけるのか・・・・。
それはわからない。
人それぞれの思い方があるように、生み出した人間は読む人間にまでは干渉できない。
それでも、コトバは生き続ける。
+++
「・・・和泉さん、どうしたんですか?」
本を読む彼女は、トイレから帰ってきた俺の体勢が気になるんだろう。
普段は背中を合わせて、彼女は読書。俺は執筆。
本来なら、帰ってきたら俺は机に向かっていつもどおりになるはず。
だけど、俺は彼女の背中を見ていた。
いつもあるはずの重みと支えがない事に、彼女は俺の方へ首を向ける。
「眠いんですか?」
布団あっちですよー。
と、俺の寝室を指差す。
俺は彼女の肩に頭をのせた。
「わわわ」
背中じゃなく肩の重みに驚いて、少し強張るのがわかる。
「少し、本に酔っただけだ」
「え?え?」
疑問譜が頭から見え隠れしてる。
『凄い子が来たわよ』と嬉しそうに話す美作さんが渡してくれたのは、その『凄い子』さんが書いた小説。
デビュー作が既に何万部かいっているらしい。
『ライバル登場?』と妙にウキウキしていたな・・・。
で、俺はその本を読んだ。(失礼ながら現実逃避として)
恋愛物であるそれは、読みやすいものであった。
だが・・・・
(だめだ)
「和泉さん?」
『泉さん?』
(ちくしょう)
「和泉さん?」
『さよなら、 泉さん』
(所詮空想だろ・・・・。作られたモノだ・・・。)
俺はいつの間にか彼女の腰に回していた腕に力をこめた。
生み出した人間の叫び声か、思いの強さか、
それともただの創造された世界だけなのか、
コトバを受け取る人間には
わからない。
(ただ彼女に似ていた、それだけだ)
(彼女は、生きている)
温もりは確かだ。
-------
口の悪い和泉さんと、あせる和泉さんが書きたかったw
上総さんに似ている登場人物がお亡くなりになり、しかも相手の名前が泉だという・・・。
RADの『バイ・マイ・サイ』を聞いて浮かんだものです。
英文わかんないけどね\(^0^)/
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