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本の虫と文字の虫とその周辺                                                            (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
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ガンガンにクーラーが効いていた。
印税暮らしの小説家様は環境に厳しいのかと説教の体勢に入っていたけど、出鼻を挫かれた。

うわぁー。


あろうことか、
2人仲良く、タオルケットにくるまってお昼寝なんて。


一瞬あの人が言ってたみたいに危ないことになっちゃったんじゃないかと思ったくらいよ。



私が推察するに、

丹波くんが進んで彼女を招き入れることは、まぁないでしょう。
とすれば、丹波くんが眠ってるところに彼女が来て潜り込んだのか?それならありえるわね。
それか、寒そうな丹波くんにタオルケットかけてそのまま一緒に寝ちゃったか。
あー、それっぽいなぁ。
それが妥当でしょう。



そうこう考えてるうちに丹波くんが起きた。



「……ん?」
「おはよう」


相変わらず眼鏡をはずすと男前。格好いいじゃないか。
この隠れイケメンめと心の中でぼやく。


「はい、眼鏡」


手渡すとおぼつかない手でそれを受け取ってかけた。

「……美作さん?」
「そうよ、締め切り近いから様子見に来たんだけど」
「あぁそれなら、」
「そんなことは今はよくてね」



「なんでこんなことになってるの」

眠っている彼女を指差す。
彼女は可愛い寝顔で健やかな寝息をたてている。
こうして見ると高校生はやっぱり子供で、
2人並んだその体格差にほんのちょっと犯罪の香りがした。


なんてね。

年の差なんてたかだか知れてる。私も人のこと言えないし。



丹波くんは寝覚めのぼんやりした顔のままで応える。

「なんでと言われても…」
「なによ、もっと慌てて弁解とかないの?」
「慌てて、弁解?」
「彼女が勝手に!とか」
「いや、こうしたの俺ですから」



「…………え?」



「なんか彼女寝ちゃって。寒そうだからブランケットかけたんだけど、俺もつい」
「そこでなんであなたも入っちゃうの」
「寒かったんで」
「……ふーん」


話すそばからブランケットを彼女に掛け直す。


なんだこれ。



「……クーラー消せば済んだわよねぇ」
「まぁ、そうですね」
「これだから夏場のカップルは」
「っ、そんなんじゃないですからっ」


またあの、隠しきれてない変な顔。
なにそれ。
あれは良くてもこれはダメなの?



「……丹波くん」
「……はい」
「あなたって変よね……」
「なんですかいきなり」




ほっとけばよかったかしら。なんて今更思うわ。









(なんて環境にやさしくないイチャつき方!)
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まぁ古かったからね。と言ってしまえばそれまで。
それでも充分機能していたんだからやはり廃棄よりかは修理を選びたい。
前触れもなくいきなり動かなくなってしまった。
使えるのに邪な気持ちで使わなかったからヘソを曲げてしまったのかもしれないな。




今度こそ、
クーラーはつかない。




「扇風機は、」
「知ってるか?電化製品の故障は連鎖するんだ」
「絶望的じゃないですか……」



密閉はさすがに死ぬと思ったが窓を開けても風がない。
これじゃあどっちがマシかわかったもんじゃない。
うちわで扇いだところで熱い風が移動するだけ。
もはやこの家に暑さをしのぐ手段はなかった。



「どうするんですか」
「五時には修理屋が来る」
「買換えましょうよ……」
「考えないわけじゃないけどな」
「ここは一発思いきって!」
「脚下」
「えー」
「これでいいんだよ」



まぁわからなくはないですけど。と言って彼女は畳に寝ころんだ。



「家に帰れば涼しいクーラーが待ってるんじゃないか」
「いてあげますよ。暑くても我慢して」



だからもっと良い顔してください、なんて。
できるか畜生、複雑な顔で一杯一杯だ。
それに今日はなんでそんなに上からなんだ。



「……腹出てるぞ」
「サービス?」
「何に対しての」
「さぁ」
「ほんとにきみは自由だな……」



彼女が少し笑って目を閉じた。
寝るなというのももうしんどくて、俺はそろそろ執筆に戻ろうとペンを持ち、額の汗をぬぐった。



汗が原稿用紙にこぼれおちる。
全く筆が進まない。
七日の命がやけに煩い。
原因はそれだけでもなくて、
視界の端で彼女を捉えてもうすでに数十回。

文明の利器に頼らなきゃ生計も立てれそうにないと実感してがっかりした瞬間。



彼女は何かを思いたって、ローファーを引っ掛けて炎天下に飛び出していった。いつのまに起きたのか。鞄はここに置いたまま。
帰ったわけではないだろうと、それでも落ち付かずに待っていると五分もせず帰ってきた。
相当熱いらしく前髪が汗で湿っている。



「じゃーん」



コンビニ袋から取り出したのは、今まさに冷蔵庫から取り出したような冷気を放つ、アイスクリーム。

袋をやぶいて彼女が一口目を口にする。



「つべたい、です」



おいしい、と笑う。
みかんが贅沢に入ったバーアイス。

しかし、なんだ。
コンビニ袋がぺたんこな気がするんだが。



あれ。



「……一本だけ?」
「え?」



彼女は丸い目で答える。



「……俺の分は、」
「ないです」
「ほんとに?」
「ないです」
「……信じられない」



しばらくふてくされたのは言うまでもない。



「女の子のお財布アテにするなんてサイテーですよ」
「男の財布アテにすんのもたいがいサイテーだろ」
「まぁたしかに」
「やさしさが足りない」
「そんなこと言うならもうあげません」
「…………」



じっと視線の攻防、かと思いきや、
暑さに双方、戦意喪失。

ただここまでくるのに、やたらと時間がかかった。



「……一口いりますか?」
「……いる」



最初から二人ともそれで折れればいいのに。
もうほとんど溶けてるじゃないか。







(間接なんたらなんて茶化すこともできないくらい意識して)


今までは趣のある素敵なおうち、なーんて思ってました。けど、撤回!
もしかしてここは高度な経済の成長を迎えていないのか。

「いくらなんでもこの家暑すぎます」
「日陰だし大丈夫だって」
「それじゃあ耐えきれません」
「耐えて」
「……和泉さん戦後に出てきた3Cって知ってますか」
「ちょークールな千島列島」
「………」

ダメだ。暑すぎる。
暑すぎて、天才作家の頭も沸騰してるのかもしれない。

「うそ、冗談」
「この家には3Cのうちひとつしかないですよね」
「え?車以外はあるよ」
「どこにですか…、あった」

クーラーって、白とか灰色じゃなかったっけ?
今どき日曜6時半の国民的アニメもこんな茶色のでかいクーラーなんて使ってない。たいそう趣のある木の壁と色が同化して今まで気付けなかった。これつけたら変な音とかしない?大丈夫?

「つけないんですか?」
「つかないんです」
「えー」
「それについてないほうが大正ロマンな感じだし」
「それは和泉さんが扇風機一人占めしてるから言えるんですよ」

鬱陶しい黒髪をバタバタなびかせながら執筆中。
あたしは珍しく背中にはくっついていなかった。あたし汗かいててくさかったら嫌だもん。そんなとこ知られたくない。

「入れば?」

扇風機の勢力範囲内にですか。だからむりですって。
原稿とにらめっこしたまんま、こいこいと手招きをする。そんな和泉さんがちょっと可愛かったから、ついつい向かってしまった。
半透明の緑の羽を回し続ける、クーラーに引き続きこれまた無駄にレトロな扇風機。近づいたついでにつまみをひねって風力を最大にする。

「ちょっと!」
「あ」

書き終わった原稿がばっさばさ飛ばされる。でも部屋からは出ていかなかったから、取りにいかなくてもいいだろうってきっと和泉さんもあたしも同じ判断を下した。だって暑いもん。仕方ない。

「そこ風届かないでしょ」
「一応届いてます」

だから、汗くさいかもですよ。あたしはギリギリで風の届くところに座っていた。和泉さんとはまだ距離がある。

「……いつもみたいに座ればいいのに」

今日初めてあたしの方を見たかもしれない。腕を掴んで、無理やり隣に、いつもの場所に座らせる。

「風きた?」
「かなりきてます」
「よかった」
「さっきより暑いですけど」
「…俺も」

背中合わせの熱は夏にはけっこう厳しい。それでも、同じこと思ってるのにお互い離れないのは、あたしにとっても和泉さんにとっても、今日が動くのも面倒なほどあついからだと思い込むことにした。








「二人ともあついでしょ!和泉くんなんでクーラーつけてないの?」
「え、つくんですか!」
「ちょっと美作さん……」
「(…そういうことか)」


暑い、熱い夏がきた。



「……それってデート?」
「……そう思う?」
「だって二人で映画行ったんでしょ」
「んー、でも、なんていうか。ねぇ?」
「いや、ねぇって言われても」
「いまいちムードがなかったのよ。隣で寝てるし」
「まぁ、そんな人ですから」


美作さんはわかってるわよ、と言ってため息をついた。


「あ」
「え?」
「あ、いや……」
「なによ」


その姿に俺は少し、昔のことを思い出した。


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