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本の虫と文字の虫とその周辺                                                            (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
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最近。

和泉さんといると、きんちょうする。

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気づいたときには、もう終わり。

さぁ、大変だ。



PCと戦っているあいだに、桜は散ってしまったが・・・
せっかくなので、載せてみたよ!!

下総と和泉さんのお話。






古ぼけたカビ臭い本。
その中に詰まってる夢と現実のギャップに落胆したり、更に理想を描いたり。
でも結局は、目の前のことだけが事実なんだろうな。





このところ越後さんのお茶菓子は専ら英字ラベルのドライマンゴー。あたしもたまに貰うけど、これがまたかなり美味しい(まあ、きっと高くていいものなんだろうな)
カウンター横の椅子に座ったまま足をぶらぶらさせる。あたしの足には少し大きめなローファーがかかとに少しだけ隙間を作った。これくらいの隙間ならセーフか、それともアウトか。答えは偶然を装いつつもきちんと計画通り脱ぎ捨てていった本人にしかわからない。


「……彼氏欲しいなあ」

相変わらず足をぶらぶらさせたまま、出来るだけ何にもないようなふりして。何秒かして、浮いた足の下にオレンジ色の乾物が転がってきた。一つでいくらくらいするんだろうか。やらしい話なんだろうけど、やっぱりお金についてはどうも過敏になってしまう。所詮庶民。

「…そういうの興味ないと思ってた」
「興味がないわけではないんですけど」

あーあ、もったいないなあ、なんて言いながら落としたマンゴーを拾ってまたページをめくる。何にもないような自然な動作で。動揺、なんてしてるわけもなく。越後さんはさっきから奥の棚で見つけた童話に夢中で、正直あたしの話とかあんまり聞いてないんじゃないかと思う。
その本はどうやら最後のページらしい。幸せそうに笑う王子とお姫さまが二人寄り添っていた。

「今日名前も知らない男子から告白されたんです」
「へえ」
「彼氏いないのに何で断るのって言われて」
「…そっか」

後になって上総に訊いたら、去年同じクラスだったらしい。忘れてた、というより端から記憶になかった。ごめんね、ナントカ君。
越後さんは本のページを少し戻して、豪華な舞踏会の挿し絵のあるページを開く。そこでは美しい姫がえらく美形な王子とダンスを踊っている。そのページを食い入るように見つめては、またドライマンゴーに手をのばす。

「魔法使いがいたらなあ」

これはあたしの言葉。
魔法使いがいれば、あたしだって一瞬でもセレブになれたりするのか。キラキラした服着て、キラキラの王子様と踊るのか。それよりも今は、魔法を使えばこの目の前の男の注意を引き付けることは出来るんだろうか。

「…魔法使いねえ」

顔を上げてこっちに目を向ける。どうやら魔法使いはあたしに味方してくれるらしい。別に灰をかぶったりなんかしてないけど、金持ち王子に釣り合うくらいにはなれるのか。答えて、魔法使い様!

「魔法使いは新しい彼氏を斡旋なんかしてくれないと思うけど」
「…そういうことを期待してるわけじゃないです」
「じゃあ何?」
「シンデレラはズルくないですか」

うーん、と唸って、脈絡ないねえ、って少し笑う。
脈絡くらいちゃんとあるつもりだ。口には出さないけど。魔法使いが偶然にも現れたから、王子様と出会うことも結婚することもできたわけだけど、所詮、魔法使いなんて現れたりしない。他人の力で幸せを掴むなんて、ズルい。まあシンデレラの今までの苦労を思うとあんまり言えないんだけど。

「ひがみ?」

越後さんは相変わらず笑ったまま。
でももしかしたら魔法使いが弱い立場の人に弱いって知ってて、わざと健気な少女を演じていたのかもしれない。そう思ったらやっぱりシンデレラはズルいだけだ。

「違います。というより王子はあんな階級違いと結婚してよかったんですか」
「…今日なんか美濃ちゃん熱いね」
「気のせいです」
「そんなにシンデレラが嫌い?」

きっと本当は嫌いなんかじゃない。ちょっとうらやましいだけ。ひがみっていうのはあながち間違いではないと思う。
越後さんは新しく紅茶を注いで、のんびり砂糖を加えていく。

「別に階級違いでもいいんじゃない?とりあえず結婚相手を見つける舞踏会だったわけだし、目標は達成されてるでしょ」
「まあ」
「でもそれから二人の生活観の違いとか出てきたら大変だよなあ」

ああ、それはもう仕方ないことなのか。やっぱり灰かぶりのような庶民は諦めなくちゃいけないのか。
地味に傷付いてるなんて知りもしない目の前のセレブリティはまた口を開く。

「でもまあ好きあってたらなんとかなるんじゃない?」
「…そうですか」
「うん、俺は見合い婚なんて嫌だ」
「……はあ?」

話が思わぬ方向にそれてちょっと焦る。もうぬるくなった自分の紅茶に口をつけて落ち着きを取り戻す。

「最近親がうるさくて」
「…さすがセレブ」
「なんか跡継ぎがどーのこーのでね」

困ったように笑って、またマンゴーを口にする。つうか、それって物語の中の王子と同じ境遇じゃないか。王子がいたらひょっとしたら魔法使いもいるかも、なんて、あり得ないか。それにしてもすごいんだなあと改めて思い知らされた。

「あれ、でも越後さんってお兄さんいませんでしたか」
「見合い婚失敗してバツイチ」
「うわ…」
「見合いではよかったけど、いざ一緒に暮らしたらなんか違ったんだって」
「…へえ」
「俺は絶対恋愛結婚する」

妙に決意されてなんだか反応に困る。でもすっかり彼の注意は本からそれていた。それでもそれる方向が間違っている。結局あたしの話じゃない。別にいいけど。

「跡継ぎとかそんなの関係ないよ」
「……」
「だから、美濃ちゃんも適当に彼氏なんて作っちゃだめだよ」

あたしのカップに暖かい紅茶を注ぎ直してくれた。ドライマンゴーはもう食べ終えてしまったらしい。
相変わらずローファーとかかとは隙間を作る。わざと脱いで逃げたところで一致しないのだから意味を持たない。靴が合わないから本人ではないと決めつけられるのは、魔法使いが彼女にピッタリの靴を作ったからだ。どこぞのメーカーの作る24センチの靴にピッタリ合う足を持つ女性を探したって無意味なだけ。

「越後さん保護者みたいですね」
「まだ22歳なんだけど」
「すごくおじさんっぽいですよ」

どうやら魔法使いが現れなくても、計算高い確信犯の女でなくてもいいらしい。
あのあときっとシンデレラは価値観の全く違う王子との生活にストレスを感じて離婚する。でも彼女は働くことが得意だから、きっとバリバリのキャリアウーマンとして世にはばたいていくんだ。
そう考えてるうちに、彼女のことを嫌に思ったり、ひがんだりしなくなった。我ながら思うけどいやな女だ。そんなシンデレラだったら間違いなく今の自分の方が幸せだ。
結局は自分の話に帰ってきた。適当に彼氏なんて作るわけない。あたしだって彼氏とかに全く興味ないわけじゃないんだ、っていう意志を、見せたつもりだったけど。

「あ、」

ローファーが脱げた。

「この靴はあなたのものですか?」
「、え」
「…うわー、美濃ちゃんピッタリじゃないの?!」
「ちょっと大きいんです」
「しっかりしてよ魔法使いさん!」
「…あたしに言わないでください」

それに、魔法使いなんていないですよ。
履かされた左足が妙にこそばゆくて、屈み込んだ越後さんが見えないように、顔を反らした。恥ずかしくて仕方がない。ばか、靴を履かせるのは王子様じゃなくて召しつかいなのに。

「靴でしか女を見分けられないなんて最低だよ」

俺ならオーラですぐ見つけてやるのに!
そんな幸せな目に遭えるなら、自ら(計画的に)健気に、献身的に灰をかぶってもいいかもしれない。

「そんな王子様だったら、素敵ですね」

そんな王子様だったら、素敵、?
口にしてから疑問に思った。違う、王子様が素敵だから、そんなことを言えるんだ。素敵な、王子様。
どちらにせよひどく恥ずかしいことを言ってしまったと気付いたのは、目の前のセレブがそんなこと言われると照れるねえ、とニヤニヤしだしてからのことだった。





たまたま立ち寄ったコンビニであの雑誌を見つけたから手にとった。
パラパラとめくると特集に目が止まる。



『10代女子が選ぶ!恋人にしたい男100選!!』



ふーん。へー。ほー。

くだらないと思いながらじっくり見てしまうあたり自分も今どきの女子なんだなーと思いながら、ページを捲る。

連ドラに出てる新人俳優。外人アーティストに、巷で人気のイケメン多数。でもやっぱり格好良いと思えない。どこがいいんだか。
あー、今じゃ若社長なんかまでもが取り上げられてたりするのか。
球児にゴルファ―。ピアニストに小説家。



「………ん?」



小説家?



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