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本の虫と文字の虫とその周辺                                                            (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
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七夕企画をするのかどうかさえ決まっていないのに(笑)
勝手にスタートしちゃいました。

しかも新キャラでてるし←

・下総が書きたった。
・誰かに愛称で呼んで欲しかった。

THE妄想!
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上り下りの対称性
ver.スピンオフ

あたし(あくまでも自分主義)のやりたいことやらせた。
ぐだぐだはもはやご愛嬌で。←







結構久しぶりに必死。
俺は今日1日実行委員を中田で精一杯エンジョイするつもりだったんだ。朝イチ誰もまだ来てない中で中田に変身したし。(だから今日中田が俺ってこと和泉以外知らない)
でも突然の来訪者に朝からずっと心が落ち着かなかった。だって来るとか一言も言ってなかったし。いきなりすぎた。それは隣の黒メガネも同じだったみたいで、場内で見かけるあの子を必要以上に無視なんかしちゃったりして、ちょっとバカだなあとか思った。ほんと素直じゃないねえ。あ、これってツンデレ?なんか違うか。
そんなバカはほっといて俺は本日のエンジョイの照準を別のものに定め直すべく、颯爽と本部を抜け出した。(端から見れば中田がのっそり歩いてるだけかもしれないけど)時々写真撮影させられながら、この人ごみの中一人風船配りながら歩いた。

「(あ、美濃ちゃん)」

だいぶ人も帰ったころ、俺(中田)はついに美濃ちゃんを見つけた。何故か一人で歩いてた美濃ちゃんも中田(俺)を見つけてなんとまあこっちへ向かってきた。
うーん、ヤバいぞ今さらかなり後悔してきてる。それは和泉を一人で放ってきたとかじゃない。あいつは文化祭くらい働くべきだ。印税で悠々と暮らし、不埒にもJKを毎日家に招いてるやつなんてたまには汗水垂らして働くべきだ!まあ俺(中田)も負けじとだいぶ汗水を垂らしてるわけでございますけども。なんてったって暑くて死にそうだ。そんな備前くん的美学としては汗だくのまま美濃ちゃんの前に出るなんて許せない。美濃ちゃんの前ではかっこいい越後さんでありたいからね!
でも今見失ったら次会えるかわかんないし。なんで着替えてこなかったんだ。いや、早く会いたかったからそんなことしてる時間がもったいないと思ったんだっけ。
抱きついたのが実は俺だって知ったらキレるだろうなあ。あたしの夢を返してくださいって静かに怒られるに違いない。怒られたい。あ、違った、直接話したい、けど今絶対汗臭いし、嫌だ。うーん、どうしようか。

「中田さん、」

え、どう反応したらいいの。裏声とか?そういうの苦手なんだけど!
俺(見た目中田)があたふたしてたら、あ、ごめんなさい、と空気を読んでくれた。さすが。

「友達を別の人のところに行かせたらあたしが一人になっちゃって」

なーんだ、やっぱり後悔しなくてよかった。結局不埒な和泉くんは仲良く文化祭デートのオチか。俺はこんなにも困ってるのに。和泉のバカ。

「それであたしはもう帰ろうかなって思うんですけど、道わかんなくなって、だから正門まで案内してくれませんか?」

話を聞く限り上総ちゃんを和泉のとこに行かせたのは美濃ちゃんだよね?
暑さにやられた頭にぐるぐると2つの思考が交差する。1つは美濃ちゃんの中での俺の存在が皆無、もう1つはこの子があり得ないくらいに謙虚である。どっちにしろ、俺は泣きたくなった。
わかったよ、というようにオーバーに頷いてみれば安心したように笑う美濃ちゃんの顔が薄い布を隔てた向こうに見えた。どうしてかこんなに近いのにちっとも近くない。

ラッキーなことにここは文学部棟の前だった。俺はここから正門までの帰り道を何パターンも知っている。どれが一番時間がかかるんだろうか。普段講座遅刻ギリの俺が全く通らない、経済学部の前とか通っちゃってみたりして。
初めは俺(中田)に気を遣ってか、暑いですね、お疲れさまですとか優しい言葉をかけてくれてたけど、頷くだけで中田(俺)からは言葉が返ってこないとわかった彼女は、だんだんと投げ掛ける言葉を長くしていく。

「本当は今日買い物に行く予定だったんですよ」
「それが急に昨日になって、友達が文化祭行こうって言い出して。買い物誘ったのあの子なのに。それって大きな目的がないと普通言わないですよね?」
「でも今日はなんにも言わないでただ文化祭を楽しみにきました、みたいな態度取って、まあバレバレなんですけど。だから、行かせてやったんです。友達はちょっと驚いたかもしれないけど、今のあたしは結構満足です。良いことしたって気分で」

中田からの返事はやっぱりない。
一方的な話の中、彼女はここで一旦大きな息をつく。
それから、話しだすためにまた息を吸って、…でもその言葉は声にはならず息になって吐き出される。彼女は何かを言いあぐねていた。

「…でも、本当は」

経済学部の前を過ぎ、社会学部の角を曲がると正門までの直線コースになるのをすっかり忘れてた。本部がだんだんと近くなる。

「あの子が文化祭誘わなかったら、あたしが誘おうって思ってたんです」

大きな目的のために。

「…でもこうやって中田さんとデート出来たし、今日は中田さんに会いに来たんだって思ってても「あー!中田!お前どこでサボってたわけ?!」

げ、と思って本部の方見たら、実行委員長の、ナントカ君が仁王立ちしてる。まだ正門まで50メートルはあったのに。あーあ、一番会いたくない人だったかもしれない。
ずかずかと中田(俺)に近寄ってきて、それから美濃ちゃんに気づいた。美濃ちゃんは焦って口を開く。

「あたしが迷子になって案内してもらってたんです」
「…なんだ、そうだったんだ」
「ね、中田さん」

なんにもなかったふりして、笑いながら同意を求める彼女に頷いてみせた。
それから彼女はありがとうございましたと言って一人で歩いていく。隣でナントカ君もあの子可愛いなあ、なんて言いながら笑顔で手を振る。

本部から正門出るまで二人で見送り、歩道をちゃんと歩く彼女の背中を見届けたあと。

「うわー中田脱ぐな!まだ文化祭終わってねえし!」

言われても無視。無視。
中田脱いで、中のシャツ脱いで、本部にあった予備の実行委員Tシャツを被る。汗で貼りついた前髪は、落とし物のリボンの付いたゴムで縛った。それから本部に置きっぱなしだった俺のタオルを掴んで、

「おい逃げんな!」
「大丈夫絶対戻る」

バカだ。
和泉も相当のバカかと思ってたけど、今日は上を行くバカを見つけてしまった。俺の周りにはバカばっかり集まるらしい。というより、俺がバカをほっとけないだけかもしれない。
さっきナントカ君に話してるとき、ただ文化祭だけを楽しみにきました、みたいな顔で笑ったりなんかして、もう、本当にバカ。本人には言わないけど。そんなこと言ったら俺殺されるし。
全力疾走。こんな汗っぽいとこ本当は見られたくないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。だって後ろでナントカ君の叫び声がする。追いかけて来てるのかもしれない。スピード落としたりなんかしたら、確実に追い付かれる。

「美濃ちゃん!」

近くなる背中に呼び掛けた。
びくっとして彼女は振り返り、俺(もう中田ではない)の存在に目を見開く。

「え、越後さん、?」
「いいから今は走って!」

無理やりに彼女の手首を掴んで走らせる。中学のとき陸上部って言ってたから、走っても大丈夫だよね。むしろ俺が心配。朝も早かったし一日サウナだったし。ていうか縛った前髪が揺れておでこに当たってちょっとこそばいんだけど。
手首を掴んだ手は、汗とその他の気持ちで滑り落ちて、手のひらでうまく留まった。ぎゅっと力をこめたら、五秒くらいあとに握り返された。俺今死んでもいい。
結構走ったらしく、わりと駅の近くまで来てしまっていた。走る速度を落として適当にそのへんのファーストフード店に入るとクーラーがガンガンにかかっていて気持ちよかった。
手のひらは気持ち悪いくらい汗をかいていて、店に入ってすぐに離れていった。

「…、なんなんですか、一体」

息の荒い彼女が切れ切れに言う。俺まだしゃべれないよ。そんな元気ない。
でも店員が怪訝そうに俺たちを見るから、俺はない力を振り絞ってポテトとジュースを二つ頼んだ。

「…今日いたんですか」
「いました」
「どこにいたんですか」
「暗いとこ」

間違ってはない。
彼女は運ばれてきたジュースを飲みつつ、別に怒ったふうでもなく、ただ淡々と質問する。

「なんであんなに走ってたんですか」
「サボってたから怒られた」
「…バカじゃないですか」
「なんのためにサボってたと思う?」
「…そんなの知らないです」
「美濃ちゃん探してたって言ったら?」
「……ただのバカでしょ、そんな前髪でよく歩けますね」

走ったせいで前髪がヘナってしまっていた。ゴムを取って縛りなおす。これ一体誰のだったんだろう。

「…恥ずかしくないんですか」
「前髪?」
「じゃなくて、」
「じゃなくて?」
「…わからないならいいです」

美濃ちゃんのジュースの容器からガラガラと氷の音がする。飲むの早すぎでしょ。早すぎる理由は一体なんだろうか。

「あの、中田さんに会ったら大きな目的は果たせたって言っておいてください」
「…なにそれ?」
「あたしと中田さんだけの話です」
「俺にも教えて!」
「嫌です」
「えー」

ヒーローは本当の姿を隠し続ける。確か中田さんは戦隊ヒーローだった気がする。だから、そういうことで俺もその精神にのっとります。中田と美濃ちゃんだけの秘密。本当は秘密にする相手いないんだけどね、なーんて死んでも言わない。やっぱり夢壊したらキレられると思うし確実に。
あと中田=俺なのに、美濃ちゃんと秘密を共有するヒーロー中田に嫉妬しそうだ。なんで俺名義での秘密じゃないんだ。でもヒーローじゃなかったらあんな話してくれなかったよなと思うと、やっぱり嫉妬してしまう。

「暗いとこにいたってなにやってたんですか」
「治安維持」
「…あたし帰っていいですか」
「じゃあ俺も帰る」
「バカですか」

一番のバカは俺かもしれない。
さっきから何度も掛かってきているナントカ君からの電話を無視してるあたりとか、今日の朝彼女がしたことは絶対忘れないように心の中で誓ったりだとか、さっき繋いだ方の手は絶対洗いたくないと思ってたりだとか。ガキみたいだけど、そう思わずにはいられなかった。



一人から見てもらえなきゃ、意味ないから。



「美濃ちゃん見て見て!」
「…なんですか」

鞄から雑誌を少し出したところで気づいた。よく考えれば、こんなかっこいい和泉を見せちゃダメだ。ダメだ、ときめかれたら困る。和泉の普段を知ってる俺でもこの写真のかっこよさには驚いたから、こんなん見せちゃまずい、うわ、気づくの遅すぎるぞ俺!
突然黙った俺を怪訝そうに見てた彼女は、鞄から出ている雑誌の表紙を見て「ああ、それなら見ましたよ」とあっさり言ってのけた。

「正確には見せられた、って感じですけど」

ああ、あの子か。
落ち着いて考えればわかることじゃないか。なに焦ってんだか。俺ださい。

「和泉さん、でしたっけ?かっこいいですよね」

もうときめいちゃってんじゃん。時既に遅し。美濃ちゃんはちょっと笑ってそう言った。なんなんだ写真一枚で美濃ちゃんを笑わせられるなんて我が友ながらすごいやつだ。しかしまあ、悔しいというかなんというか。

「だから学園祭の美男子コンテストに応募しようと思ってんだけど」
「和泉さんは良いって言ってるんですか」
「言ってないから嫌がらせで出そうかと思って」

出て、優勝でもなんでもすればいい。で、可愛い女の子らに囲まれて慣れない状況に困ればいい!
でも本当に起こりそうで、それはそれで嫌だった。つうかなに、俺もしかしなくても和泉に嫉妬してるのか。美濃ちゃんには名前呼びされてるし、才能もルックスも持ち合わせてるとか、ずるい。こんなん言うのも今更だけど。うわー俺今すっげえ醜い。

「…越後さんは出ないんですか?」
「今んとこは予定ない」
「出たらいいじゃないですか」
「なんで?」
「だって越後さんなら絶対入賞できると思うのに……」

二秒ほどの間のあと、「今の無し、気にしないでください!」と珍しく焦ったような声で言われた。そして逃げるように店の出口付近まで行く彼女。
…どうしよう、きっと今顔の筋肉が緩みっぱなしだ。それは、裏返して考えてもいいのかな。俺が入賞できると思ったのは、なんで?

「じゃあ俺も出ようかな」
「…良かったですね、きっと女子大生からハーレムされますよ」
「あー、じゃあやっぱやめよ」

さっきまで和泉に嫉妬してた自分がキモい。なんだ俺まだまだいけるじゃん。自分に自信持てそう、とか、俺どんだけ現金なんだ。

「女子大生は嫌なんですか」
「やっぱり女子高生に限るよ」
「…親父趣味」

女子高生も、人物が限定されなきゃ意味ないけど。
口には出さないけど、そう思った。



PCと戦っているあいだに、桜は散ってしまったが・・・
せっかくなので、載せてみたよ!!

下総と和泉さんのお話。






古ぼけたカビ臭い本。
その中に詰まってる夢と現実のギャップに落胆したり、更に理想を描いたり。
でも結局は、目の前のことだけが事実なんだろうな。





このところ越後さんのお茶菓子は専ら英字ラベルのドライマンゴー。あたしもたまに貰うけど、これがまたかなり美味しい(まあ、きっと高くていいものなんだろうな)
カウンター横の椅子に座ったまま足をぶらぶらさせる。あたしの足には少し大きめなローファーがかかとに少しだけ隙間を作った。これくらいの隙間ならセーフか、それともアウトか。答えは偶然を装いつつもきちんと計画通り脱ぎ捨てていった本人にしかわからない。


「……彼氏欲しいなあ」

相変わらず足をぶらぶらさせたまま、出来るだけ何にもないようなふりして。何秒かして、浮いた足の下にオレンジ色の乾物が転がってきた。一つでいくらくらいするんだろうか。やらしい話なんだろうけど、やっぱりお金についてはどうも過敏になってしまう。所詮庶民。

「…そういうの興味ないと思ってた」
「興味がないわけではないんですけど」

あーあ、もったいないなあ、なんて言いながら落としたマンゴーを拾ってまたページをめくる。何にもないような自然な動作で。動揺、なんてしてるわけもなく。越後さんはさっきから奥の棚で見つけた童話に夢中で、正直あたしの話とかあんまり聞いてないんじゃないかと思う。
その本はどうやら最後のページらしい。幸せそうに笑う王子とお姫さまが二人寄り添っていた。

「今日名前も知らない男子から告白されたんです」
「へえ」
「彼氏いないのに何で断るのって言われて」
「…そっか」

後になって上総に訊いたら、去年同じクラスだったらしい。忘れてた、というより端から記憶になかった。ごめんね、ナントカ君。
越後さんは本のページを少し戻して、豪華な舞踏会の挿し絵のあるページを開く。そこでは美しい姫がえらく美形な王子とダンスを踊っている。そのページを食い入るように見つめては、またドライマンゴーに手をのばす。

「魔法使いがいたらなあ」

これはあたしの言葉。
魔法使いがいれば、あたしだって一瞬でもセレブになれたりするのか。キラキラした服着て、キラキラの王子様と踊るのか。それよりも今は、魔法を使えばこの目の前の男の注意を引き付けることは出来るんだろうか。

「…魔法使いねえ」

顔を上げてこっちに目を向ける。どうやら魔法使いはあたしに味方してくれるらしい。別に灰をかぶったりなんかしてないけど、金持ち王子に釣り合うくらいにはなれるのか。答えて、魔法使い様!

「魔法使いは新しい彼氏を斡旋なんかしてくれないと思うけど」
「…そういうことを期待してるわけじゃないです」
「じゃあ何?」
「シンデレラはズルくないですか」

うーん、と唸って、脈絡ないねえ、って少し笑う。
脈絡くらいちゃんとあるつもりだ。口には出さないけど。魔法使いが偶然にも現れたから、王子様と出会うことも結婚することもできたわけだけど、所詮、魔法使いなんて現れたりしない。他人の力で幸せを掴むなんて、ズルい。まあシンデレラの今までの苦労を思うとあんまり言えないんだけど。

「ひがみ?」

越後さんは相変わらず笑ったまま。
でももしかしたら魔法使いが弱い立場の人に弱いって知ってて、わざと健気な少女を演じていたのかもしれない。そう思ったらやっぱりシンデレラはズルいだけだ。

「違います。というより王子はあんな階級違いと結婚してよかったんですか」
「…今日なんか美濃ちゃん熱いね」
「気のせいです」
「そんなにシンデレラが嫌い?」

きっと本当は嫌いなんかじゃない。ちょっとうらやましいだけ。ひがみっていうのはあながち間違いではないと思う。
越後さんは新しく紅茶を注いで、のんびり砂糖を加えていく。

「別に階級違いでもいいんじゃない?とりあえず結婚相手を見つける舞踏会だったわけだし、目標は達成されてるでしょ」
「まあ」
「でもそれから二人の生活観の違いとか出てきたら大変だよなあ」

ああ、それはもう仕方ないことなのか。やっぱり灰かぶりのような庶民は諦めなくちゃいけないのか。
地味に傷付いてるなんて知りもしない目の前のセレブリティはまた口を開く。

「でもまあ好きあってたらなんとかなるんじゃない?」
「…そうですか」
「うん、俺は見合い婚なんて嫌だ」
「……はあ?」

話が思わぬ方向にそれてちょっと焦る。もうぬるくなった自分の紅茶に口をつけて落ち着きを取り戻す。

「最近親がうるさくて」
「…さすがセレブ」
「なんか跡継ぎがどーのこーのでね」

困ったように笑って、またマンゴーを口にする。つうか、それって物語の中の王子と同じ境遇じゃないか。王子がいたらひょっとしたら魔法使いもいるかも、なんて、あり得ないか。それにしてもすごいんだなあと改めて思い知らされた。

「あれ、でも越後さんってお兄さんいませんでしたか」
「見合い婚失敗してバツイチ」
「うわ…」
「見合いではよかったけど、いざ一緒に暮らしたらなんか違ったんだって」
「…へえ」
「俺は絶対恋愛結婚する」

妙に決意されてなんだか反応に困る。でもすっかり彼の注意は本からそれていた。それでもそれる方向が間違っている。結局あたしの話じゃない。別にいいけど。

「跡継ぎとかそんなの関係ないよ」
「……」
「だから、美濃ちゃんも適当に彼氏なんて作っちゃだめだよ」

あたしのカップに暖かい紅茶を注ぎ直してくれた。ドライマンゴーはもう食べ終えてしまったらしい。
相変わらずローファーとかかとは隙間を作る。わざと脱いで逃げたところで一致しないのだから意味を持たない。靴が合わないから本人ではないと決めつけられるのは、魔法使いが彼女にピッタリの靴を作ったからだ。どこぞのメーカーの作る24センチの靴にピッタリ合う足を持つ女性を探したって無意味なだけ。

「越後さん保護者みたいですね」
「まだ22歳なんだけど」
「すごくおじさんっぽいですよ」

どうやら魔法使いが現れなくても、計算高い確信犯の女でなくてもいいらしい。
あのあときっとシンデレラは価値観の全く違う王子との生活にストレスを感じて離婚する。でも彼女は働くことが得意だから、きっとバリバリのキャリアウーマンとして世にはばたいていくんだ。
そう考えてるうちに、彼女のことを嫌に思ったり、ひがんだりしなくなった。我ながら思うけどいやな女だ。そんなシンデレラだったら間違いなく今の自分の方が幸せだ。
結局は自分の話に帰ってきた。適当に彼氏なんて作るわけない。あたしだって彼氏とかに全く興味ないわけじゃないんだ、っていう意志を、見せたつもりだったけど。

「あ、」

ローファーが脱げた。

「この靴はあなたのものですか?」
「、え」
「…うわー、美濃ちゃんピッタリじゃないの?!」
「ちょっと大きいんです」
「しっかりしてよ魔法使いさん!」
「…あたしに言わないでください」

それに、魔法使いなんていないですよ。
履かされた左足が妙にこそばゆくて、屈み込んだ越後さんが見えないように、顔を反らした。恥ずかしくて仕方がない。ばか、靴を履かせるのは王子様じゃなくて召しつかいなのに。

「靴でしか女を見分けられないなんて最低だよ」

俺ならオーラですぐ見つけてやるのに!
そんな幸せな目に遭えるなら、自ら(計画的に)健気に、献身的に灰をかぶってもいいかもしれない。

「そんな王子様だったら、素敵ですね」

そんな王子様だったら、素敵、?
口にしてから疑問に思った。違う、王子様が素敵だから、そんなことを言えるんだ。素敵な、王子様。
どちらにせよひどく恥ずかしいことを言ってしまったと気付いたのは、目の前のセレブがそんなこと言われると照れるねえ、とニヤニヤしだしてからのことだった。





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