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本の虫と文字の虫とその周辺                                                            (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
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ベタな勘違い。ベタな反応。
街はすっかり春色だった。ついでに君の顔もね。






今日は良い天気。あったかくてかなり眠くなる。でもすごく春らしくて、俺は好き。あと俺花粉症じゃないしね。春って大好きだ。
そんな感じでルンルン気分な越後備前、無事大学三回生になれました。バイト先はこぢんまりとした古本屋で、彼女はいません。でも募集はしてません。ちなみに好みのタイプは、芯の強い子かなあ。えーと、あとお酒と煙草は苦手。
こんな俺は今バイト先に向かって歩いてる。なんで徒歩かと言うと、まあ、春だからです。モンシロチョウがヒラヒラ飛んでるの見ながら風に乗った桜の花びらを全身に浴びて、ってああ俺今幸せすぎる。このまま旅に出たい。放浪とかしたい。あ、でもバイト行けなくなったら嫌だな、サークルにも顔出さなきゃそろそろ和泉になんか言われそうだし、うーん、放浪の件は要検討ってことで。

「ちょっとキミかわいーね」

古本屋のある商店街はまあ人通りは少ない。しかも大概はご年配の方。若い人は浮くんだよね。俺も十分浮いてる。まだまだ若い。

「こんなとこで何してんの?バイト?」

髪を染めると言えば紫だろう、そんな環境の中での茶色い頭たち。すごく浮いてる。うーん、いくつくらいだろう。俺よりは若いかな?

「美濃ちゃん」
「越後さん…!」

振り返った彼女は珍しく弱った顔。手にはホウキとチリトリ。店の前の掃除でもするつもりだったのか。真面目すぎる。
近くに来たらなんかタバコ臭かった。

「なんだよ、ツレいんのかよ」

ぶつぶつ言い出す彼らはなかなかイケメンだった。普通に彼女いるでしょ。ダメだよ二股は。女の子から嫌われるよ。

「まあ、そういうことだから」

一度でいいからやってみたかったんだ。
美濃ちゃんの肩を抱いて、自分へと引き寄せる。
そのままにっこり微笑めば、イケメンたちはダルそうに歩いて行った。

「な、何言ってんですか」

おもいっきり突っぱねられて、ホウキの柄が鎖骨に当たって痛かった。
ガシャンと音を立ててチリトリが落ちる。動揺してるんだ。かわいい。

「…あれじゃ誤解されます!」
「でも誤解される方が都合良かったでしょ」
「ま、まあ…」

実は俺も今更手が震え出したりしちゃったりなんかして。あの子たちが怖かったとかじゃない。
掴んだ彼女の肩は薄っぺらくて柔らかかった。引き寄せた彼女の身体は小さかった。

「早く仕事してくださいよ」

彼女はプイと背を向けて店の中に戻る。こっそり見た横顔はなんとも春っぽい色をしていて、一人でニヤニヤしてしまった。

「何ニヤニヤしてんですか、キモい」
「助けてもらったくせにそれはひどいよ」
「……ありがとうございました」
「え?なんて?」
「もう言いません!」

うそうそ、ちゃんと聞こえてたよ。
本の整理を始めた小さな背中に口パクでそう告げた。
やっぱり放浪の件は無しの方向で。



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手元にあるザラ紙。さっき無理やりに空欄を埋めた。埋めたところでそれが本心かどうかはわからない。
(『オレンジ、まだらなグレー』の続き。まだの方はそちらからどうぞ)



今日のシフトは五時から。
緩やかに水平線に向かう太陽がビルの間から見えた。
うんざりする。
自分は絶対に違うと思っていたのに、なんで。
どんよりする自分の心の内とは裏腹に、少しずつ姿を見せる桜の花たちが優しい春の訪れを告げる。
はじめての春。
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