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ごめんなんかどうしても
頭の中であの不精髭が喋ってる(´∪`;)

七夕企画!

200mlの天体

「へぇ。あいつにもそんな子がいんのか」
「素直な良い子よ。今も二人で過ごしてるんじゃないかしら」
「若いなぁ、和泉」
「まぁ大学生だし」



そう言って向こうにもう一杯注ぐ。
悪いな。と彼が差し出したキンキンに冷えたコップに、
波打つ黄金色のビール。
風情ある夜といえばこれだ。昔から。

彼と私の共通の口グセは「とりあえず飲もう」だった。

七月七日の夜のこと。



「でも相手は女子高生なんだろ?」
「えぇ」
「大丈夫なのか、それ」
「大丈夫って?」
「危ないことになったり」
「彼にそんな度胸があればとっくに変なことになってるわ」
「……それもそうか。そもそも、あいつがまともに女口説けるとは思えん」
「でしょうね」



ということはやっぱり今も進展していないのかしら、と思う。
頑張れ青少年。
意地悪言ってもお姉さんは推進派です。



「そういうお前はどうなんだ」
「私?」



思わぬところで自分に話がかえってきた。
正直、ドギマギした。



「もう良い歳だろお前も」
「あなたに言われたくありません」
「こういう日に他に行くとこないのか?」
「あったらこんなところにいないわよ」
「こんなところとはなんだ」
「私、アンチ古本なんで」



だって新刊じゃないと収入が、と言おうとしてやめた。
なんで久しぶりに会ったのにこんな会話しなきゃなんないのよ。

喉まで出かかった喧嘩腰な言葉をアルコールで飲み干す。

彼もそれを察したらしく、また新しく一杯注ぎなおした。



「丹波くん。また新刊出すの」
「へぇ」
「締め切りにもやっと慣れてきたみたいで。でも出版パーティーとかしんどそうにしてるけど。そういうところ、あなたみたいね」
「あいつも入稿遅いのか?」
「え?」
「肌。荒れてる」
「えー……」
「俺の担当時代もそうだったなぁ、お前」



彼とは顔馴染みだった。
蝦夷播磨。小説家。今は休業中で古本屋経営。
私が今の職に就いたとき、初めて担当したのが彼だった。

懐かしい思い出と一緒に、

苦々しい記憶も思い出した。



「初担当があなただったんだと思うと昔の私が憐れ……」
「なんで」
「いっつもギリギリだったからよ!何度原稿取りに行っても「まだ」って、それが締め切り当日まで!しかも焦るどころか余裕だし?それがまた腹立つったらっ」
「どうどう」
「ストレス溜まっちゃって。肌ボロボロだったの、あなたの所為なんだから、」
「悪かったな」



ほろ酔いな私にまぁ飲めよとまだ少し残ってる私のコップに注いでいく。

この男はもしかして、酒ですべてが解決するなんて勘違いしてるんじゃなかろうか。

高くからきらきら黄金色にうねり波打つ。
天の川みたい。



「あ」



天の川が途切れる。
ビール瓶は空っぽになった。



「もう一本空けるか」



冷蔵庫からもう一本出そうと腰を上げるのを尻目に、
私はコップ一杯に満たされた天の川を見つめていた。

聞こえることなんてないだろうと、アルコールの混じったため息と一緒に本音を吐露する。



「……ほんと師弟そろって」










「綺麗な姿で、会いに行かせてほしいのに」









それくらい叶えてくれも良さそうなものじゃない?

ねぇ織姫さま。

いつでも会えるわけじゃあ、ないんだから。





彼がビールを2本引っ提げてきたときには、私はもう立ち上がって身だしなみを正していた。



「なんだ、飲んでかないのか」
「帰ります」
「ふん、そうか。またアイツの締め切り近いんだろ?」
「えぇ」
「当分はお前の顔見ないで済みそうだ」
「そうね」
「……まぁ。一段落ついたら、また一杯やろう」



そう言いながら珍しく、今日は店先まで送ってくれた。
そのとき風でちらちら揺れているのが目についたものだから



「どうしたのあの笹」
「バイトが拾ってきた」
「ふーん」
「なにか願い事あんのか?」
「あったら叶えてくれるの?」
「誰がそんなこと言ったんだ。あるなら、吊るしとけよ」



そう言われて真剣に願いを考えた。



次の入稿はスムーズにいきますように。
それでもって綺麗な姿で、会いに行けますように。



「……やっぱりやめとくわ」



短冊に書くよりも、丹波君にお願いするほうがよっぽど現実的だということに気付いた。

大人ですから。

大人の願いを叶えてくれるのは、
コップに波打つ黄金色の、お酒だけなんです。







200ml







「今ならわかるんだけどなぁ」

「わざと原稿遅らせて待つよりも、さっさと書きあげてデートに誘う方が、よっぽど早かったのに」



ま、若かったから仕方ないか。と蝦夷播磨は星屑を飲下す。
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ぎゃ!
播磨氏いい男…!
こりゃあ髭がいい。髭がいい!
しょこ 2008/07/08(Tue)18:01:59 編集
うほ
伊予さんいい女すぎる!(´∀`)ww
チコ 2008/07/08(Tue)22:03:06 編集
まじですか
髭セーフ?
良かった(´∀`;)

伊予さんも受入れられてよかったよ…。笑

はじめてスピンオフ書いた。笑
まぁや 2008/07/08(Tue)22:05:58 編集
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