本の虫と文字の虫とその周辺 (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
会いたいと思っても願っても。
上り下りの対称性《中編》
お待たせしました
ついに当日編(・∀・)
でも長くなったので中篇。←
上り下りの対称性《中編》
お待たせしました
ついに当日編(・∀・)
でも長くなったので中篇。←
気まぐれに手伝おうと思って足を運んだ実行委員本部。
人手不足とは、なるほど。忙しさで酷い喧騒だった。顔死んでる奴ばっかじゃないか。
「………」
なんかみんなごめん。申し訳ない。
あんなにあっさり断ったことに今さら罪悪感。
死屍累々に話しかける。
「………あのさぁ、」
俺やっぱりやるよと言うと温かく迎え入れられた。
そして今。祭に賑わう人々が目前を通り過ぎていくのを目にしながら、
男2人並んで受付で、入場切符切りをしていたりする。
それにしてもこのパイプ椅子座り心地悪すぎる。
やはり座布団がいいな。
思い浮かべたのが畳部屋の文机と背中の彼女だったのは言うまでもなく。
「なかなか人来るもんだね」
「そうだな」
「あの子足細ッ」
「そうだな」
「今の返答は上総ちゃんに報告だな」
「ふざけるな。……それよりも備前、お前、」
「なんだその格好は」
備前が着ていたのは、昔書いて予想外のヒットを来した、正義と悪が逆転する、ロボとか出てくるかんじの物語のうさぎヒーローの着ぐるみだった。名を「中田」という。
「いつ突っ込んでくれるのかと思った」
「いや、ほんとはもう敢えてずっと放っとこうかと思った」
「それは酷すぎる」
「お前浮かれてるよな………」
「そりゃ浮かれるでしょ。お祭だし」
「…………」
楽しくなんか。
「そりゃお互い意中の彼女はここにいないけど、」
「おい」
「でも頑張ろう?こんな風に貢献することってあんまりないし。こーゆーときに本領を発揮すべきだよ」
「…………案外良識あるよな、お前」
「え、何。和泉きもちわる!」
「死ね」
隣のパイプ椅子を蹴ると壊れそうにぎしと軋んだ。足癖が悪いと備前に非難される。知るか。なんだこれは、全く楽しくない。
なぜ俺はこんなところにいるんだろうか。
正面はそれなりに楽しそうにしている来客。
上はスコーンと抜けた雲一つない晴天。
下はよく軋むパイプ椅子。
右は中田の着ぐるみ着用の備前。
左は"受付こちら"の立て看板。
後ろには、何もない。
そうだ何もないんだ。後ろには何もない。だから。
彼女が来ないことなんてもう昨日からわかっていたんだからいい加減ふっきればいいのに。自分がこんなに未練がましいとは思いもしなかった。
なんだか自分が残念だ。なんでもっと余裕でいられない。
こんな自分はどうだとか考えている間も間接的には彼女のことを考えていることになるわけで、っていうか今これを考えている時点でもう。という無限ループ。
延々切符切りじゃ思考回路もそうなるだろ。おかしくもなる。
そう割りきって自分に、存分に彼女について考えることを許した。
「……なぁ和泉。黙ってないで相手してくんないと暇なんだけど」
「ちょっと黙ってろ」
「もしかして、きもちわるいって言ったのまだ怒ってる?」
例えば、彼女がここに来ていたなら、(この仮定がまず未練がましすぎる)
あぁそうだ、きっとあんな格好で、粉ものの屋台に気をとられ、隣の中田に反応し、それから………
「ん?」
いや、あの格好は。
「まさか」
本物?
「あ。和泉さん!」
にこにこしてこちらに大きく手を振る。
幻覚ですか?
俺の未練はそれほどだったのか。
いやはやほんと恐ろしい。俺、大丈夫ですか?
「和泉さん」
「……幻覚、じゃないよな。やっぱり」
「幻覚?」
「いや……。よく来た」
「なんで、とか聞かないんですか?」
「聞かない」
予想外に会えた。
それだけで良かった。
彼女は友達も連れていて、
(たしかこの子が備前の)
どうも、と会釈したので同じようにどうもと返した。
それから振り返って備前を見ると。
「………」
声を出さずに「中田」をまっとうしていた。
「ねぇねぇ、和泉さん」
「ん?」
「その着ぐるみ、中田さんですよね!」
「あ、いや、そいつは」
着ぐるみが俊敏に蹴りを入れてきた。
誰ださっき人の足グセを非難したのは。
そこで無愛想なほうの彼女が声をだす。
「あの」
「抱きしめてもいいですか」
中田、頷きすぎだから。
彼女は何げない表情で(内心は嬉しいらしい)
ぎゅっと中田(備前在中)を抱きしめ、
ありがとうございますとお辞儀して離れていった。
「え、美濃だけずるい、わたしもっ」
「きみはダメ」
「なんでっ」
「ダメです」
飛びつこうとする彼女の肩を押えた。
中田がほくそえんだ気がした。
「和泉さん、一緒にまわれますか?」
「あぁ、」
大丈夫。と、言おうとしたが、ふと横を見ると、
受付待ちの長蛇の列。
「……あー。ごめん、仕事」
ついでに実行委員になったことを思い出す。
「そうですか…。じゃあ美濃とまわってきます」
「あぁ。仕事はすぐ片づけるから。そしたら」
彼女は頷いて行ってしまった。
備前が中田の頭をはずす。
「……なぁ和泉」
「なんだ備前」
「もうザボろう」
「さっきと言ってること違ってないか」
予想外に会えた。
それだけでいいはずがなかった。
なんでこんなふうにいつも。
上り下りの対称性《中編》
(幻じゃないと知って喜び過ぎたがために)
人手不足とは、なるほど。忙しさで酷い喧騒だった。顔死んでる奴ばっかじゃないか。
「………」
なんかみんなごめん。申し訳ない。
あんなにあっさり断ったことに今さら罪悪感。
死屍累々に話しかける。
「………あのさぁ、」
俺やっぱりやるよと言うと温かく迎え入れられた。
そして今。祭に賑わう人々が目前を通り過ぎていくのを目にしながら、
男2人並んで受付で、入場切符切りをしていたりする。
それにしてもこのパイプ椅子座り心地悪すぎる。
やはり座布団がいいな。
思い浮かべたのが畳部屋の文机と背中の彼女だったのは言うまでもなく。
「なかなか人来るもんだね」
「そうだな」
「あの子足細ッ」
「そうだな」
「今の返答は上総ちゃんに報告だな」
「ふざけるな。……それよりも備前、お前、」
「なんだその格好は」
備前が着ていたのは、昔書いて予想外のヒットを来した、正義と悪が逆転する、ロボとか出てくるかんじの物語のうさぎヒーローの着ぐるみだった。名を「中田」という。
「いつ突っ込んでくれるのかと思った」
「いや、ほんとはもう敢えてずっと放っとこうかと思った」
「それは酷すぎる」
「お前浮かれてるよな………」
「そりゃ浮かれるでしょ。お祭だし」
「…………」
楽しくなんか。
「そりゃお互い意中の彼女はここにいないけど、」
「おい」
「でも頑張ろう?こんな風に貢献することってあんまりないし。こーゆーときに本領を発揮すべきだよ」
「…………案外良識あるよな、お前」
「え、何。和泉きもちわる!」
「死ね」
隣のパイプ椅子を蹴ると壊れそうにぎしと軋んだ。足癖が悪いと備前に非難される。知るか。なんだこれは、全く楽しくない。
なぜ俺はこんなところにいるんだろうか。
正面はそれなりに楽しそうにしている来客。
上はスコーンと抜けた雲一つない晴天。
下はよく軋むパイプ椅子。
右は中田の着ぐるみ着用の備前。
左は"受付こちら"の立て看板。
後ろには、何もない。
そうだ何もないんだ。後ろには何もない。だから。
彼女が来ないことなんてもう昨日からわかっていたんだからいい加減ふっきればいいのに。自分がこんなに未練がましいとは思いもしなかった。
なんだか自分が残念だ。なんでもっと余裕でいられない。
こんな自分はどうだとか考えている間も間接的には彼女のことを考えていることになるわけで、っていうか今これを考えている時点でもう。という無限ループ。
延々切符切りじゃ思考回路もそうなるだろ。おかしくもなる。
そう割りきって自分に、存分に彼女について考えることを許した。
「……なぁ和泉。黙ってないで相手してくんないと暇なんだけど」
「ちょっと黙ってろ」
「もしかして、きもちわるいって言ったのまだ怒ってる?」
例えば、彼女がここに来ていたなら、(この仮定がまず未練がましすぎる)
あぁそうだ、きっとあんな格好で、粉ものの屋台に気をとられ、隣の中田に反応し、それから………
「ん?」
いや、あの格好は。
「まさか」
本物?
「あ。和泉さん!」
にこにこしてこちらに大きく手を振る。
幻覚ですか?
俺の未練はそれほどだったのか。
いやはやほんと恐ろしい。俺、大丈夫ですか?
「和泉さん」
「……幻覚、じゃないよな。やっぱり」
「幻覚?」
「いや……。よく来た」
「なんで、とか聞かないんですか?」
「聞かない」
予想外に会えた。
それだけで良かった。
彼女は友達も連れていて、
(たしかこの子が備前の)
どうも、と会釈したので同じようにどうもと返した。
それから振り返って備前を見ると。
「………」
声を出さずに「中田」をまっとうしていた。
「ねぇねぇ、和泉さん」
「ん?」
「その着ぐるみ、中田さんですよね!」
「あ、いや、そいつは」
着ぐるみが俊敏に蹴りを入れてきた。
誰ださっき人の足グセを非難したのは。
そこで無愛想なほうの彼女が声をだす。
「あの」
「抱きしめてもいいですか」
中田、頷きすぎだから。
彼女は何げない表情で(内心は嬉しいらしい)
ぎゅっと中田(備前在中)を抱きしめ、
ありがとうございますとお辞儀して離れていった。
「え、美濃だけずるい、わたしもっ」
「きみはダメ」
「なんでっ」
「ダメです」
飛びつこうとする彼女の肩を押えた。
中田がほくそえんだ気がした。
「和泉さん、一緒にまわれますか?」
「あぁ、」
大丈夫。と、言おうとしたが、ふと横を見ると、
受付待ちの長蛇の列。
「……あー。ごめん、仕事」
ついでに実行委員になったことを思い出す。
「そうですか…。じゃあ美濃とまわってきます」
「あぁ。仕事はすぐ片づけるから。そしたら」
彼女は頷いて行ってしまった。
備前が中田の頭をはずす。
「……なぁ和泉」
「なんだ備前」
「もうザボろう」
「さっきと言ってること違ってないか」
予想外に会えた。
それだけでいいはずがなかった。
なんでこんなふうにいつも。
上り下りの対称性《中編》
(幻じゃないと知って喜び過ぎたがために)
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