忍者ブログ
本の虫と文字の虫とその周辺                                                            (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
[44]  [43]  [42]  [41]  [40]  [39]  [25]  [38]  [37]  [36]  [35
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

報われない毎日に乾杯!


上り下りの対称性《後編》

これで最後。

(前編から時間経ちすぎたので)

前編 中編




その日の俺はすごかった。
自分で言うのもなんだがすごくよく働いた。
少しでも早く終わらせようとこの炎天下、
シャツがびしょびしょになるくらい奔走した。


パンフレットが刷り足りない? 印冊!
また役員が逃げた? 捕まえてこい。(逃げたいのは俺だ)
ファンですサインください? いやそれは仕事外ですから。


無償でこの働き。

あぁ俺めちゃくちゃ貢献してるわ。って、ぜんぜん嬉しくないし。



「暗幕が破れた!」

「お釣が足りない!」

「迷子!」



仕事、おわんないし。
いつまで経っても俺のシャツは乾かない。



「和泉、和泉」



隣について走る備前が声をあげる。



「なんだ」
死にそう
「じゃあ脱げよ」



俺も中田と走るのは暑苦しかった。

とにかく、こんなふうに俺は頑張っていた。

こうまで忙しくなければきっと今頃は、
たとえばたこ焼き食い歩いたり、
お化け屋敷できゃー、的な、とか、



「………あいたた」



期待した残念な俺です。


度々彼女を見かけて勝手に切なくなったリした。
切なくなるので見ないことにした。


このぶんじゃ
もう一緒には無理そうだ。


こんなに頑張ってるのに。



「………やってられん」



報われない。











時間はもう四時を回っていた。

校舎の廊下では生徒と、少しずつ帰り出す外部者でごったがえしてて、
あたしは少しだけ疲れていた。
人混みはしんどい。目がまわる。


手を繋いでいなければすぐ離れてしまいそうななかで上総が言う。



「次どこいこっか」



上総とまわるのは楽しいけど、
あたしは気がかりで仕方なかった。



「……和泉さんは?」
「和泉さん?」
「一緒に回るんじゃないの」
「んー。……忙しいみたいだし」



さっきからすれ違っても全然声かけてくれないもん。とか、
上総は拗ねた口調で言い出すけど、
いや和泉さんにも思うところがあってね、なんて、
聞いてもいない和泉さんの心情を心の中で弁解する。

(まぁ、どっちにしても心の中だから上総にはまず伝わらない。)

和泉さんのがっかりした顔といったらなかった。
上総と回るのを相当楽しみにしていたんだろう。


和泉さんのためじゃないけど。



「上総がたのしいのが、一番いい」
「え、ちょっ、美濃、」



わざと手を放した。

人波の中で消えてしまうのは簡単で、
上総の姿はすぐに見えなくなった。



ばかみたいだ。
買いものに行く約束だったのに、
学園祭でもいいかなんて申し訳なさそうに聞いてきた理由は?
このままじゃ何しに来たのかわかんない。

学園祭だ。
祭だから楽しくあるべきなんだ。



「………」



越後さんあたりが言い出しそうなことを思ってひとり寒くなった。

楽しくあるべきなら。


あたしだって、




「……これからどうしよう」












ついさっき仕事が終わりました。
今の時刻。五時。
人で賑わっていた学校がそろそろ寂しくなる時間。



「(さすがにもう、)」



帰った、よな。

あーあ。




がく、とその場に座り込んだ。
ここは祭に使用されない立ち入り禁止の図書館。
もちろん無人。
ただ本の匂いが立ち込めている。
一日の労働に耐えた俺は安息を求めてここにやってきた。


そこで思い出す。


そうだやっぱり、俺が本の上にチラシを置いたのがいけなかったんだ。
最初から期待してたのが駄目だった。
彼女が来れないと知って落ち込んで、
今日彼女の姿を見て舞い上がり、
そしてやっぱり落とされた。


もうやめてしまいたい。


こんな意味のない一喜一憂は。




「(………疲れた)」




普段運動していないもので体のあちこちが痛かった。
ぼろぼろだしくたくただ。なんだか眠い。
こんなに働いたんだから後片付けはいいだろう。任せた。

そういえば中田をまとった備前はどうしたんだろうか。
酸欠寸前のヤツは早々に俺を裏切って逃げた。
あの後あの無愛想な彼女には出会えたんだろうか。

まぁ俺には関係ないか、と思考を断ち切り、
人もいないことだし終わりまでここで寝てやろうと思って、
顔を、伏せたら、






「やっぱりここだった」







「………え?」




そこには腰に手を当て不機嫌に立つ彼女がいた。

本日二回目になるけど、






幻覚?






「和泉さん」






では、ないよな。当たり前に。

俺は間抜けな顔だったに違いない。
驚きながらなんとか口を開く。



「……どうしたんだ」
「どうしたんじゃないですよ!本部の人に訊いたら、和泉さん、休憩入ったって言うから。でも見当たらないんですもん。探しましたよ。で、和泉さんならここかなって」



大正解。と彼女は一人嬉しそうに笑った。
それからまた不機嫌な顔に戻って口をとがらせて言う。



「仕事終わったら一緒に、って言ったじゃないですか」



「……帰ったと思ったんだ」
「なんで?」
「もう五時だし。あと一時間しかない」
「一時間も、あるでしょ」



「一緒に回りましょうよ」



「………うん」
「ほら立って!」



彼女が俺の手を掴ん引っ張る。
俺は立ち上がって、

逆に彼女の手を引いて、こちらに引き寄せてぎゅっとしてやる。


……なんてことももしかしたらできたかもしれないが。
どう考えても、今は彼女が優位だった。








「まぁ一時間あるとはいっても、回れるところは限られてるんですよね」
「そうだな」
「どこから行きましょう」
「…………、」



俺は少し考えて答えた。






「お化け屋敷」














期待は、挫かれる。

だけどそれでも、
俺はまた性懲りもなく期待するだろう。







彼女に関して言えば、
最終的にがっかりすることなんて、ないはずだ。







上り下りの対称性《後編》

「和泉さんって、」
「ん?」
「半袖似合いませんよね」
「ほっとけ」
「嘘です」
「……っていうかさ、」
「はい」
「お化け屋敷とか怖くないの」
「全然」
「(……残念)」


そしてまた期待を挫かれる。
PR
Comment
name 
title 
color 
mail 
URL
comment 
pass    Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメントの修正にはpasswordが必要です。任意の英数字を入力して下さい。
うわーい
図書館でぎゅってしてやったのかと思ってドキドキした´`
ちと残念…


やつらのことは任された!
しょこ 2008/07/05(Sat)17:25:47 編集
げへへ
おつかれっ!

まぁやも和泉さんもおつかれ!(´∀`)

ニヤニヤがとまんねぇ(笑)
チコ 2008/07/05(Sat)17:32:03 編集
おわたー
しょーこちゃん≫著作者の規制がかかってるので自制したんだよ(*´`*)あれスレスレ。笑
うん任せた!めちゃくちゃ楽しみにしてる!!

ちこちゃん≫見せてもらった絵のおかげで一気にやる気わいたわ…。笑
ニヤニヤしてもらえたなら本望ですよ(*´`*)
まぁや 2008/07/06(Sun)12:32:10 編集
無題
お疲れ様☆
なんかやっぱり虫さん読むとときめくなぁ。っておもっちゃいました(^U^)ノ
これからも更新楽しみにしてるね-!!
あと、テスト期間の土日ってなんかいいね。笑
まみ 2008/07/07(Mon)11:41:04 編集
( ∪ )
むてきをときめかせたならしてやったりやな。笑
なんだかんだで唯一の純粋な視聴者やし(´∪`)

きっとこれから当分はまた熱いと思うよ。笑

まぁや 2008/07/08(Tue)12:31:19 編集
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
Template by Crow's nest 忍者ブログ [PR]