本の虫と文字の虫とその周辺 (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
今更七夕?そーです。7月中ならいいんです。←俺様基準
「……………」
普段よく喋る人間が黙り込む事ほど気まずい空気はないと思う。
彼女は短冊やらなんやらを飾りつけた決して大きくはない笹を握ったまま窓から外を恨めしそうに眺めている。
小さな背中から放たれているオーラは哀しみなのか怒りなのか。
「雨…降っちゃいましたね」
ぽつりと零された言葉。
どう返したら良いのか分からず「あぁ」なんて無難な返事をした。
「ひどくないですか?織り姫と彦星は年に1回しか会えないのに雨ですよ?」
嬉しそうに笹と短冊セットを持って彼女がやって来た時には晴れていた空は今は雨。
織り姫の父親によって引き裂かれた2人は1年に1度、七夕の日にだけカササギに手伝ってもらい逢う事が出来る。
ただし、雨の日を除く。
「これは織り姫パパの陰謀ですかね?これだから男親ってのは……」「カササギも雨ぐらいで仕事サボるんじゃないですよ」なんて先程からぼやいているこの文学少女は中々にロマンチストなんだと意外な発見に浸っていたが、ここまで彼女が凹んでいるとこちらも調子が狂う。
かと言って、どう言葉をかけたら良いのだろう。
何年も小説を書いてきたのに脳内の語学ストックには今かけるべき台詞の該当数0。
下手な言葉をかけて彼女を傷付ける訳にもいかず悩んでいるとあちらから声をかけてきた。
「織り姫と彦星、今頃どうしてると思います?」
「え?」
「超売れっ子小説家の和泉さんなら思い付きますよね」
何だかものすごくプレッシャーを掛けられた気がするけど、この返答によって今後の彼女の気持ちが変わるのだろう。
今の俺にとっては深刻な問題だな、コレは。
じぃーっと俺を見つめる瞳から目を逸らして考えてみる。
やっぱり2人共嘆き悲しんでるんじゃないだろうか。ただそれはあまりに在り来り。彼女の機嫌も回復なんてしないはず。
もし、1年に1度しか逢えない約束すら果たされなかったら?来年までお預けになったら?
もし、俺なら?
「きっと……彦星はダメになってる」
仕事はもちろん食事なんかまで手につかず、机に突っ伏してる。男なんてそんなもん。原稿用紙をグシャグシャにしては放り投げて溜息ついて。
「頼りない彦星ですね。織り姫は?」
少し笑って続きを促す彼女を盗み見ては考える。
「織り姫も最初は哀しむはずだ。絶望の声をあげて」
でも哀しむのはそこまで。来年に向けてすぐに動き出す。
嘆き悲しんで終わるような子ではない。
きっと気の遠くなるような数のてるてる坊主を作って作って――
彦星の所にまで届くぐらい作れたらカササギなんかに頼らず自分の力で天の川すら渡るだろう。
何がなんでも逢いに行く。
「強いですね、織り姫」
「俺もそう思うよ」
「え?」
何でもないとごまかすと「流石は和泉さんですね」と褒めながら彼女は何かを作り始めた。
完成した白く小さなそれを笹に括り付けると満足そうに頷いた。
「和泉さん」
「何?」
「私も何があっても和泉さんの所に来ますからね!」
小説が読みたいから?それとも俺に逢いに?なんて聞けるはずもなくて「そうか」とだけ言っておいた。
雨が少しだけ止んできた気がした。
「……………」
普段よく喋る人間が黙り込む事ほど気まずい空気はないと思う。
彼女は短冊やらなんやらを飾りつけた決して大きくはない笹を握ったまま窓から外を恨めしそうに眺めている。
小さな背中から放たれているオーラは哀しみなのか怒りなのか。
「雨…降っちゃいましたね」
ぽつりと零された言葉。
どう返したら良いのか分からず「あぁ」なんて無難な返事をした。
「ひどくないですか?織り姫と彦星は年に1回しか会えないのに雨ですよ?」
嬉しそうに笹と短冊セットを持って彼女がやって来た時には晴れていた空は今は雨。
織り姫の父親によって引き裂かれた2人は1年に1度、七夕の日にだけカササギに手伝ってもらい逢う事が出来る。
ただし、雨の日を除く。
「これは織り姫パパの陰謀ですかね?これだから男親ってのは……」「カササギも雨ぐらいで仕事サボるんじゃないですよ」なんて先程からぼやいているこの文学少女は中々にロマンチストなんだと意外な発見に浸っていたが、ここまで彼女が凹んでいるとこちらも調子が狂う。
かと言って、どう言葉をかけたら良いのだろう。
何年も小説を書いてきたのに脳内の語学ストックには今かけるべき台詞の該当数0。
下手な言葉をかけて彼女を傷付ける訳にもいかず悩んでいるとあちらから声をかけてきた。
「織り姫と彦星、今頃どうしてると思います?」
「え?」
「超売れっ子小説家の和泉さんなら思い付きますよね」
何だかものすごくプレッシャーを掛けられた気がするけど、この返答によって今後の彼女の気持ちが変わるのだろう。
今の俺にとっては深刻な問題だな、コレは。
じぃーっと俺を見つめる瞳から目を逸らして考えてみる。
やっぱり2人共嘆き悲しんでるんじゃないだろうか。ただそれはあまりに在り来り。彼女の機嫌も回復なんてしないはず。
もし、1年に1度しか逢えない約束すら果たされなかったら?来年までお預けになったら?
もし、俺なら?
「きっと……彦星はダメになってる」
仕事はもちろん食事なんかまで手につかず、机に突っ伏してる。男なんてそんなもん。原稿用紙をグシャグシャにしては放り投げて溜息ついて。
「頼りない彦星ですね。織り姫は?」
少し笑って続きを促す彼女を盗み見ては考える。
「織り姫も最初は哀しむはずだ。絶望の声をあげて」
でも哀しむのはそこまで。来年に向けてすぐに動き出す。
嘆き悲しんで終わるような子ではない。
きっと気の遠くなるような数のてるてる坊主を作って作って――
彦星の所にまで届くぐらい作れたらカササギなんかに頼らず自分の力で天の川すら渡るだろう。
何がなんでも逢いに行く。
「強いですね、織り姫」
「俺もそう思うよ」
「え?」
何でもないとごまかすと「流石は和泉さんですね」と褒めながら彼女は何かを作り始めた。
完成した白く小さなそれを笹に括り付けると満足そうに頷いた。
「和泉さん」
「何?」
「私も何があっても和泉さんの所に来ますからね!」
小説が読みたいから?それとも俺に逢いに?なんて聞けるはずもなくて「そうか」とだけ言っておいた。
雨が少しだけ止んできた気がした。
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