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本の虫と文字の虫とその周辺                                                            (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
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(『オレンジ、まだらなグレー』の続き。まだの方はそちらからどうぞ)







今日もバイト終わったー。今日は一人で花見だ、わーい。寂しくなんてないよいえーい。和泉はあの子といつも通りイチャイチャしてるし店長は家族で先週行ったばっかりらしいし、美濃ちゃんは今日バイトじゃないから会わないし。会わないと連絡出来ない。メアドとか全然知らないもん。普通バイト仲間だったらそれくらい知ってるよなあ。どんだけ仲良くないんだ。あ、今自分で思って悲しくなった。しゃーない、あの猫連れてこう。これで一人じゃないぞ。そういや名前まだ付けてない。なんかいいのないかな。
そのまま無理やりルンルンな気分でいつもの場所まで行った。ちょっとスキップした。でもむなしくなったからすぐ止めた。

「…美濃、ちゃん?」
「あ」

もう八時ですけど。なんで女子高生が一人でこんな薄暗いとこにいるんですか。
暗い中目を凝らしてよくよく見ると美濃ちゃんの足元には200ミリパックの牛乳。隣にはツナ缶。

「え、どうして」
「…可愛いから」
「まあそりゃそうだけど」

猫は美濃ちゃんにすっかりなついてるようだった。足に頭をすりすりして、あ、ちょっとうらやましいかも。うわ俺今ものすごい親父つうか変態だ。キモい。ごめんなさい。

「あ、花見行かない?」
「今からですか」
「そうだけど。遅いし無理なら、」
「別にいいですよ」

断られるかと思ってた。あっさりオーケーを出した彼女は優しく猫の頭を撫でていた。暗いから、表情は見えない。ちょっと惜しい気がするのは何でだろ。


「今日親が旅行に行っちゃってて、妹は友達の家に泊まりに行ってて」
「一人なんだ」

草をかき分けながら美濃ちゃんは言う。彼女の鞄は俺が持った。彼女は代わりに猫を抱いていた。
俺の後ろを歩くから時々不安で、何度も振り返ってしまった。その度目があうのは猫、とかちょっと、なんだかねえ。しかも猫に睨まれるとか、あ、うらやましいと思ってたのがバレたのか。

「どこまで見に行くんですか」
「板見が丘公園」
「遠くないですか」
「車だし、すぐだよ」

え、って言ったのが俺には聞こえた。俺が車に乗るのは意外なのか。もう大人なんだから車くらい乗るけど。


「はい、どうぞ」

助手席のドアを開けてあげる。おお、俺大人の男って感じ。路上駐車だけど。つかこれ口にしたらものすごくガキ臭いんだろうな。

「…どうも」

パタパタと服に付いた草を払ってゆっくりと座る。そのあと俺がドアを閉めた。こんなん今まで誰にもしたことない。すごく慣れてないのがバレないといい。

「ちゃんとシートベルトしてね、減点されんのは勘弁だから」
「…事故ったら大変とか言ってくださいよ」
「大丈夫、俺安全運転のプロだから」
「もちろんそうであってください」

静かに音を立てて車は走り出す。いつもの商店街を横目にして、俺の通う大学も通りすぎる。八時半にもなるとこの辺りの道路は比較的空いていて、公園にはすぐに着きそうだった。

「なんであそこにいたの」

膝の上の猫の頭を撫でる美濃ちゃんを一瞥してから、問う。美濃ちゃんは一瞬こっちを見たけど、生憎(もちろんだけど)俺は前を向いていた。

「…あたしも好きなんです」
「俺みたいに熱狂的に?」
「本当はそれくらい好きですけど、表面に出すのって得意じゃなくて」
「そっか」

何を、なんて聞く必要ないと思ってた。



「美濃ちゃんその子の名前付けて」

事故ることも減点されることもなく(当たり前だけど)無事到着。近くの有料パーキングに止めて、公園まで少し歩く。

「名前ないんですか」
「うん」
「…んー」

こういうのって根暗な人は好きな子の名前付けたりしますよね、なーんて真顔で言うんだから焦って焦って仕方ない。ちょっと昔の俺は根暗になりかけてたらしい。でも一回呼んで恥ずかしさで悶え死にしかけたから止めました。ごめんなさい。

「…わあ」

一人心の内で懺悔してたら、美濃ちゃんが嬉しそうに声を上げた。桜が見えてきた。公園の寒々しい蛍光灯の白に照らされて、ぼんやりと影を作りながら暗闇に桜が浮かんでいるように見えた。
すごく綺麗だった。

「あたし夜桜見るの初めて」
「綺麗?」
「うん」

桜の真下まで行けば、なんだか花に引き込まれそうな、そんな気になった。
隣で、桜に反射した蛍光灯の光を柔らかく浴びてる美濃ちゃんは、

「桜の妖精さんみたいだね」
「今ものすごく雰囲気崩れましたよ」
「すみません」

本当にそう思ったんだから仕方ない。
触れたら崩れそうで、触れなくてもこのまま散ってしまいそうな、そんな気すらした。つうか美濃ちゃんは美女すぎる。別に面食いじゃないけどさ。

「花見と言えばビールと思ってました」
「俺お酒はちょっと」
「飲酒運転にならなくてよかったです」
「減点されないもんね」

クスクス、と美濃ちゃんは笑う。
桜の近くのベンチに座って二人で俺の持ってきた缶ジュースを飲んだ。猫は美濃ちゃんの横で丸くなっている。
酔ってはないはずなのに、くらくらするかもしれない。今この雰囲気に惑わされてる。きっと美濃ちゃんもだ。こんなに笑う彼女はめったに見られない。

「あー俺今かなり幸せ」
「猫がいるから?」
「いや全部ひっくるめて」
「桜、綺麗ですも、っくしゅッ」

くしゃみも可愛いのか。
反則です。

「寒い?」
「大丈夫です」
「嘘はダメ」

黒い薄手のコート。脱いだら結構寒くてビビった。そのまま隣の肩にかけてあげる。いつもだったら突っぱねるんだろうけど今日はいつもと違った。
突然黒い布を被せられた猫は驚いてベンチから飛び降りた。

「越後さんて香水つけてますよね」
「まあちょっとだけ」
「その匂いがします」

ベンチから降りた猫は今度は俺の足元に擦り寄ってきた。やっぱり可愛い。ていうか意識を猫に集中させなきゃ、なんかもうダメだ。備前くんだって年頃の男の子なんだよ!思ったまんまを口にする前に一旦それは言ってもいいかどうかを確認しなさいとか教えられなかったのか。
猫を抱き上げて頭を撫でる。見つけたときよりかなり大きくなったかな。すくすく育つんだぞ。

「……備前、とかにしますか名前」
「え、嫌だよ自分の名前とか趣味悪い!」
「そりゃそうですね」

柔らかに笑う。
ビックリした、突然彼女の口から俺の名前が発せられたんだから。
手元からするすると猫が逃げ出して、美濃ちゃんの膝の上に落ち着く。ペットは飼い主に似るのか。

「…もう帰ろうか」
「はい」


コートが落ちないように前を掴んで歩く美濃ちゃん。その隣で猫と俺の鞄と彼女の鞄を持つ俺。この優しさ、プライスレス。但し彼女限定でね。

「家まではいいです」
「でももうこんな時間だし」

車のディスプレイに表示されているのは九時四十分。和泉は九時で家まで送ったことあるのに(確かそう言ってた気がする)、別に競うつもりじゃないけどさあ。危ないでしょ普通に。

「…上総のこと考えてました?」
「まあ、間接的に」
「自転車だし大丈夫です」

どうやら商店街のスーパーの駐輪場に自転車を止めてきてるらしかった。
行きと同じように猫を膝の上に乗せている。違うのは俺のコートを着ていること。

「それでも送る」
「…明日のバイトが」
「明日は迎えに行ってあげるよ。元はと言えば俺のわがままに付き合ってくれたんだから、自分のわがままには最後まで責任持つよ」

たっぷりの間のあと、じゃあお言葉に甘えます、と小さく告げた。真面目な子だもんなあ。
ナビに住所を入れたら案外ここから近くて、この子は遠回りするつもりだったのかと思って驚いた。

「あ、猫」
「連れて帰ります」
「いいの?」

暴れないようにと猫を抱き締めながらこっちを見る。けどごめん、今運転中だから前見てるんだ。すごくもったいない。帰ったらきれいにしてあげるね、と言う彼女の顔はきっと優しいんだろうなあという、あくまでも想像。悲しい。
そしてあっという間に到着。近すぎでしょ。急いで運転席降りてドアを開けに行く。

「ありがとうございます」
「いえいえ」
「バイト明日朝からなんで」
「まじ?」
「まじです」

俺明日夜なのに、って明日は本当なら会わない日なんだ。急に嬉しくなってきたぞ。現金な俺。

「…あと、あたし根暗なんです」
「え、」
「じゃあおやすみなさい」

俺のコートの裾を翻してスタスタとマンションに向かって歩いてく。コート忘れてたなあ。まあ別に明日でいっか、会うんだし。
運転席に乗り込みながら、後を追いかけたくなる衝動をどうにか堪えた。おんなじ意味の根暗だったら、どうしようか。ハンドルに頭を伏せて車の匂いを胸いっぱいに吸う。自分の香水の匂いとかわかんないや。もし本人の気付かないうちに俺のコートに彼女の香りがついてたら。
しばらくは運転出来そうもなかった。



(明日の朝からはまた別のお話)
(正味ぐだぐだすぎてすみません)


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ぎょひー
かわいすぎるな、この二人w
チコ 2008/03/30(Sun)20:12:55 編集
ねこびぜん…!
これ見て根暗万歳ってなった*´`*人

やっぱり本物の備前氏は違うね。笑
まぁや 2008/03/30(Sun)20:24:55 編集
なんとまあ
二人>>

でもこの話はなんか表現があからさまだったかなと後悔してる(´・ω・`)

備前はアホだけど美濃ちゃんもわりとそんなかんじ 笑
しょこ 2008/03/30(Sun)21:49:36 編集
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