本の虫と文字の虫とその周辺 (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
今までは趣のある素敵なおうち、なーんて思ってました。けど、撤回!
もしかしてここは高度な経済の成長を迎えていないのか。
「いくらなんでもこの家暑すぎます」
「日陰だし大丈夫だって」
「それじゃあ耐えきれません」
「耐えて」
「……和泉さん戦後に出てきた3Cって知ってますか」
「ちょークールな千島列島」
「………」
ダメだ。暑すぎる。
暑すぎて、天才作家の頭も沸騰してるのかもしれない。
「うそ、冗談」
「この家には3Cのうちひとつしかないですよね」
「え?車以外はあるよ」
「どこにですか…、あった」
クーラーって、白とか灰色じゃなかったっけ?
今どき日曜6時半の国民的アニメもこんな茶色のでかいクーラーなんて使ってない。たいそう趣のある木の壁と色が同化して今まで気付けなかった。これつけたら変な音とかしない?大丈夫?
「つけないんですか?」
「つかないんです」
「えー」
「それについてないほうが大正ロマンな感じだし」
「それは和泉さんが扇風機一人占めしてるから言えるんですよ」
鬱陶しい黒髪をバタバタなびかせながら執筆中。
あたしは珍しく背中にはくっついていなかった。あたし汗かいててくさかったら嫌だもん。そんなとこ知られたくない。
「入れば?」
扇風機の勢力範囲内にですか。だからむりですって。
原稿とにらめっこしたまんま、こいこいと手招きをする。そんな和泉さんがちょっと可愛かったから、ついつい向かってしまった。
半透明の緑の羽を回し続ける、クーラーに引き続きこれまた無駄にレトロな扇風機。近づいたついでにつまみをひねって風力を最大にする。
「ちょっと!」
「あ」
書き終わった原稿がばっさばさ飛ばされる。でも部屋からは出ていかなかったから、取りにいかなくてもいいだろうってきっと和泉さんもあたしも同じ判断を下した。だって暑いもん。仕方ない。
「そこ風届かないでしょ」
「一応届いてます」
だから、汗くさいかもですよ。あたしはギリギリで風の届くところに座っていた。和泉さんとはまだ距離がある。
「……いつもみたいに座ればいいのに」
今日初めてあたしの方を見たかもしれない。腕を掴んで、無理やり隣に、いつもの場所に座らせる。
「風きた?」
「かなりきてます」
「よかった」
「さっきより暑いですけど」
「…俺も」
背中合わせの熱は夏にはけっこう厳しい。それでも、同じこと思ってるのにお互い離れないのは、あたしにとっても和泉さんにとっても、今日が動くのも面倒なほどあついからだと思い込むことにした。
*
「二人ともあついでしょ!和泉くんなんでクーラーつけてないの?」
「え、つくんですか!」
「ちょっと美作さん……」
「(…そういうことか)」
暑い、熱い夏がきた。
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