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「……それってデート?」
「……そう思う?」
「だって二人で映画行ったんでしょ」
「んー、でも、なんていうか。ねぇ?」
「いや、ねぇって言われても」
「いまいちムードがなかったのよ。隣で寝てるし」
「まぁ、そんな人ですから」


美作さんはわかってるわよ、と言ってため息をついた。


「あ」
「え?」
「あ、いや……」
「なによ」


その姿に俺は少し、昔のことを思い出した。



「見合いだと?」



師匠は明かに驚いていた。



「誰が、」
「美作さんが」
「誰と、」
「編集者の…、あの、なんか、偉い人」
「わかんねぇーだろうがそれじゃあ」


明かに苛々していた。


「落ち付きましょうよ、師匠」
「なんだ和泉。俺が慌ててるように見えるのか」
「すごく」


師匠はバツが悪そうな顔をしてガサガサと髪をかきあげた。
それから俺に、まぁ座れと促して言う。


「詳しく聞こう」
「は?」
「あいつと話したことだ」
「………」


内心めんどくさいと思った。
めんどくさいが一応師匠なので文句を言わずに座る。
ほら、と促してくるので渋々口を開いた。



「美作さんもそろそろ良い歳でしょう」
「良い歳って…、あいつまだ二十代だろ」
「後半になったらすぐ三十路だって焦ってるそうです」
「なんだそれ」
「どっかの三十代みたくはなりたくないとか」
「…………」
「……話したことといったら、これくらいですけど」
「ふん」


明かに不機嫌になって立ち上がって冷蔵庫に。
また昼間っから酒でも飲む気なのかこの人は。


「……こんなだから、」
「え」
「別に」


俺はこのとき嘘をついた。
美作さんと話したことには続きがあったけど、師匠には言わなかった。

続きはこうだ。








「見合い?受けるんですか?」
「まぁ、私ももうすぐ二十代も後半に差しかかるわけだし。そしたら三十路なんてすぐよ。完璧に婚期を逃しそうな予感だわ」
「はぁ」
「どっかの三十路みたく独身でいたくないもの」
「それは、そうですね」
「だから、ね。一回くらいいいかなって。ほら、あの人のお守りも飽きてきたし」
「……ふーん」
「なんてね」



美作さんはため息をついた。



「思い知ればいいのよ」








「いつまでも当たり前に、私が傍にいるわけじゃないんだって」













何故だか俺はそのときの美作さんの顔をよく覚えている。
大人ってめんどくさい、っていうより、めんどくさい大人たちだなって思った。今でも同じようなとこ漂ってるあたりめんどくさいと思う。

だって思い知ればいいなんて言うわりには、




「……まだ傍にいるんだもんなぁ」
「え?」










「また行ったらどうですか」
「映画?」
「そう」
「そうねぇ…、考えとく」

(きっと寝てなんかいなかったと思うけど、)
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