本の虫と文字の虫とその周辺 (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
(本編に挑戦)
(和泉さんヘタレでごめんなさい)
(和泉さんヘタレでごめんなさい)
昨日担当さんと打ち合わせして、新作の方向性が決まった。まだ完成形は見えないけど、今から少しずつ形になっていくんだろう。形成されていく文と文を繋げて、一から十まで並べきったとき、またあの感覚に見舞われるだろうか。全てが揃ったときに感じる達成感のような、強く満たされる気持ちを。ああ、これだから物書きは止められない。
とは思うものの、今は書く気がどうも起きない。前作からまだそれほど時間も経っていないし、まあまだ余裕はある。今日くらいのんびりしようか。まだ彼女も来てないことだし。
『女子高生に人気のイケメン俳優登場!』
思わずテレビを前のめりで見ていた。久しぶりに見たからとかそんなんじゃない。急いでテレビから離れて周りを見渡したけれど、もちろんそこには誰もいなくて、テレビに釘付けになったことよりも一人で慌てたことに恥ずかしくなった。
明らかに備前のせいだ。あいつはいつも要らないことだけ吹き込んで帰る。もううんざりだ。女子高生、って、一体それがどうしたんだ。うんざりなのは俺の思考じゃないか。
誰もいないのを良いことに、彼女が昨日忘れて帰った鏡をこっそり覗き込む。画面の中の人物と比べるなんて、馬鹿だった。レベルが違い過ぎる。これじゃ落ち込むために見ただけじゃないか。どう足掻いたって今更あんな顔にはなれない。まあ、それで飯食ってるんだもんな。と、心で思ってもどうしようもない。鏡の中から俺を覗き込むそいつは、なんとも情けない面をしていた。
「ええーっ!?」
「うわっ」
鏡の中に突然現れたこの鏡の持ち主は驚いた顔をしていて、振り返ってもやっぱり驚いた顔をしていた。
「…何してんの」
「こっちのセリフです」
当たり前の切り返し。俺だって何でこんなことしてるのか知りたいよ。
黙り込む俺を散々近くで眺めたあと、プイと後ろを向いて本棚へ向かって行った。今日の本を出して上げないと、と俺も後を追う。
「テレビとか見るんですね」
「…たまにはね」
本を手渡したあと、彼女は遠くから光る画面を見つめた。画面の中ではイケメンと呼ばれる俳優たちが手を叩いて笑っている。あんまり見ないでくれ、そう思っても口にしなければ伝わらないみたいだ。彼女は実に真剣に彼らを見る。そうか、そうだ彼女も女子高生の一人なんだ、やっぱりイケメンが好きなんだ、よな。
「わわっ!なにすんですかっ!」
「え、あ、ごめん」
彼女の視界を手で覆ってしまった。彼女に言われて慌てて手を離す。彼女はビックリしているようだけど、それ以上にビックリしてるのは紛れもなく俺だ。
「今日の和泉さんちょっと変ですよ」
柔らかく触れた体温に、手のひらがドクドクしている。
彼女はこっちを見た。変な汗が背中を伝う。やましいことなんて考えてないのに。
「鏡見ても顔わからなくないですか」
「半分くらいは」
「鏡見る前に髪をどうにかしなきゃ」
「はあ」
彼女は再びテレビに目線を向ける。リモコンはテレビの真ん前にあって、どうしたら彼女の視界から彼らを消したらいいのかわからなかった。
相変わらず、カッコイイ顔を振りまく。人間は平等であるべきだと思う。
「女子高生の統計わかってんですかね」
「…どういうこと」
「人気とか書いてますけど、全然かっこよくないじゃないですか」
画面右下、テロップで赤字に示されたイケメン俳優の文字。その上に青い字で女子高生に人気!と書かれている。
横目に見る彼女は眉を寄せて、唇を突きだしながら話す。
「一応あたしだってこれの対象なはずなのに全然イケメンだとは思いません」
「…そうなの」
「このテレビは嘘つきですよ」
そう言いながらスタスタとテレビの前まで歩いてって、電源ボタンを押した。こんなの聴こえてきたら読書の邪魔になって仕方ない、と。
自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。やれやれといった風にいつもの定位置に腰をおろせば、背中にいつもの重み。ふう、と息を吐けばため息のように聴こえた。
「お疲れですか?」
「そうじゃないよ」
安心したんだ、なんて言うはずもなく。彼女はいつでも彼女らしい。しょうもない時間を過ごしてしまった。結局なんだかんだで今日も新作の筆を進めることになった。いつ、彼女にお披露目することになるだろうか。
背中に安心を感じながら、鉛筆を滑らせた。
「やっぱり男は背中ですよね!」
「…顔ではなく?」
「当たり前です」
(気持ちがわからない)
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