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本の虫と文字の虫とその周辺                                                            (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
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綺麗なものとか感動したものとか、
ぜんぶあなたに見せてあげたいなって思うもの。



天気予報は雨を。しかも高確率をはじきだしていた。
雨が降ったら桜が散ってしまうかもしれない。
散ってしまったら和泉さんはがっかりするだろうなぁ。

授業も上の空で、机の下で手を組み祈る。
雨が降りませんように。
雨が桜の木から花を奪いませんように。









午後三時。それは杞憂に終わる。









放課後になってすっきり晴れた空の下を行く。
桜並木を行く途中に、がくから花が丸々残ったまま地面に堕ちた桜をふたつ、みっつ拾った。

そのまま軽い足取りで和泉さんの家に行けば、
畳の書斎で何も被らずぐっすり眠っている和泉さんがいる。

毛布を引っ張りだしてこようかと思ったけど、こんなに暖かければ要らないかもしれない。そのまま傍に正座する。




ほんとぐっすりですね。
眼鏡かけたまま寝ちゃって。




文机には鉛筆が放り出されたままで、原稿がないところを見るとどうやらちゃんと締め切りを乗り切ったらしい。プロだもんなぁ。

うん。

私だって背中を我慢した甲斐があるというものです。












「綺麗に咲いてますよねー、今」

「……桜?もう咲いてるのか?」

「あれ。まだ見てないんですか?それなら今から一緒にっ、」

「無理」

「なんでですか……!」

「締め切り前」

「………この引きこもり」

「仕事だ」

「じゃあ締め切り明けてからですねー」

「………散らなきゃいいけどな」

















眠る彼の頭上に両手をかざす。
両の手のひらにはさきほど拾った桜の花がいくつか。

ぱっと手を放すとひらひらと彼に降った。




こんなに綺麗な桜なのに和泉さんは、今年はまだ見ていないなんて。
でも大丈夫。雨は降らなかった。桜は散らなかった。




横に寝転がって、頬杖をついて。




起こすのはやめておきます。
目を覚ますのを待つことにしました。
相当お疲れなようですのでいつになるかはわかりませんが。
それでもいいと思うのです。







「起きたら、一緒に花見しましょうね」







もう今日は雨は降らないでしょうから。












(目を覚ました彼は思うのです。)

(見たいと思っていた桜。会いたいと思っていた彼女。)

(二つとも叶っていてもしやこれはまだ夢なのではないかと。)
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