本の虫と文字の虫とその周辺 (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
期待、なんて。
宣言通り前編笑 日曜日は文化祭!(・∀・)
上り下りの対称性《前編》
宣言通り前編笑 日曜日は文化祭!(・∀・)
そもそもこんなチラシさえなければ、俺は今これをどこにどんな風に置けば彼女の気を引くか、なんて、考えなくてもよかったんだ。
彼女がまず腰かける丸テーブルではあからさますぎるし、日向ぼっこをしだす窓際では見てもらえるかわからない。
和室の畳の上に無造作に置くのもなんだか白々しくて、っていうかもう、考えれば考えるほどすべてわざとらしくて。
彼女の目につかなければ意味がないんだ。ならいっそ。
結局、チラシは彼女が読むと先日予約していった本の上に。
うわぁ、あからさま。
どかしたい気持ちを抑えて文机に向かう。やっぱり意図的過ぎるから場所を変えようかと思ったがもう悩むのもめんどくさい。
ようやく踏ん切りというか諦めというか、専ら後ろ向きな覚悟ができた頃になって、彼女はやってくる。
「和泉さんこんにちは!」
「あぁ」
「約束の本は、」
「あそこ」
「わー」
鞄と上着を畳に放り出して本にかじりつく本の虫。わかっていたから俺はあそこに置いたんだと、寸前まであそこでいいのか悩んでいた自分が誇らかに自慢する。
「なんだこれ……」
彼女が今拾い上げた紙には、俺の通っている大学名と明日の日付がデカデカと書かれていた。そしてより大きく、「学園祭」とも。
「和泉さん」
「ん?」
「学園祭あるんですか!?」
「あぁ。うん、ある」
「えー、早く言ってくださいよそういうことは」
「なんで」
言えないよ。
『一緒に行かないか』なんて。
「和泉さんも何かやるんですか?」
「いや、ぜんぶ断った」
「え、やる気ないですね」
誰の所為で。
「学園祭かぁ」
彼女が面白そうにチラシを見ている姿で、俺はもう彼女と一緒に回れると確信してたんだ。あとは少しきっかけを作ればいいだけだと思って。
「きっと楽しいんでしょうね」
「どうだろ」
「楽しいですよ、だって祭だし!」
ほんとうは楽しいだろうと思ってた。きみが来たら、きっと楽しい。だからこんなに遠まわしにでも誘う。
きみが来る学園祭に、抗いがたい魅力を感じたんだ。
「暇なら来ればいいよ」
この一言を言うためだけに、チラシの配置にすら頭を抱えてしまうくらい。
――――――――――そう、だったんだけど、
「………あー」
「ん?」
「すいません、明日は」
「………何か用事?」
「まぁ、そんなかんじです」
「……そうか」
現実はそんなものだった。
「ごめんなさい」
「いや、いい」
「でも」
「きみが謝る理由無いだろ」
「…………」
そんな顔をさせたかったんじゃないんだ。
彼女が帰ってからすごく後悔した。なんであんなチラシを置いといたんだろう。こんな余計な事さえしなければ彼女にあんな顔をさせずに済んだのに。
「…………はぁー」
自分が思ったよりも大きなため息が出て項垂れる。
彼女以上に落ち込んでいるのは俺かも知れない。
期待が大きすぎた。彼女と回る学園祭なんて想像しなきゃよかった。抗いがたい魅力には、抗うべきだったのに。
どうして彼女は絶対来るなんて思ったんだろう。
そして当日がきてしまった。
駄目だ気が乗らない。もう休もう。そう思っていたのだが。
けたたましく鳴るインターフォン。
俺は仕方なく出た。それがいけなかった。
彼女ではないことに気付いていたんだから出なければよかったのに(彼女はドアが開いていることを知っていてインターフォンを鳴らさない)出てしまった。
「…………うわ」
「いーずーみーくん」
「………備前」
「今日は学園祭だね」
「……知ってる」
「今日休もうとか思ってたね」
何故わかる。
「あの子来ないの?」
「来れない、らしい」
「(じゃあ美濃ちゃんも来ないなぁ…)残念だったな」
「別に」
「折角実行委員とかぜんぶ断ったのに意味ないじゃんかー。ただでさえ人数少ないのに逃げた奴がいて、酷い人手不足なのに」
「そうなのか?」
「らしいよ?」
「もしかしてお前」
「泣き落されて実行委員になった備前くんです」
「…………」
「だから暇なら一緒にやろうよ」
嫌だ。とは、なぜか口から出てこなかった。
もういいかと思ったんだ。
「………それもいいかもな」
「え、ほんと!」
「あぁ」
もういい。
なんだっていい。
彼女が来ないならぜんぶ一緒だから。さぼったって張りきったって頑張ったって。波に身を任せるよ。もう、いいじゃないか。
「………阿呆くさい」
なんでだろうなぁ。
すごくきみと行きたかったんだ。
行けないと知ってぜんぶどうでもよくなってしまうくらいに。
上り下りの対称性《前編》
(楽しい学園祭の始まり!)
彼女がまず腰かける丸テーブルではあからさますぎるし、日向ぼっこをしだす窓際では見てもらえるかわからない。
和室の畳の上に無造作に置くのもなんだか白々しくて、っていうかもう、考えれば考えるほどすべてわざとらしくて。
彼女の目につかなければ意味がないんだ。ならいっそ。
結局、チラシは彼女が読むと先日予約していった本の上に。
うわぁ、あからさま。
どかしたい気持ちを抑えて文机に向かう。やっぱり意図的過ぎるから場所を変えようかと思ったがもう悩むのもめんどくさい。
ようやく踏ん切りというか諦めというか、専ら後ろ向きな覚悟ができた頃になって、彼女はやってくる。
「和泉さんこんにちは!」
「あぁ」
「約束の本は、」
「あそこ」
「わー」
鞄と上着を畳に放り出して本にかじりつく本の虫。わかっていたから俺はあそこに置いたんだと、寸前まであそこでいいのか悩んでいた自分が誇らかに自慢する。
「なんだこれ……」
彼女が今拾い上げた紙には、俺の通っている大学名と明日の日付がデカデカと書かれていた。そしてより大きく、「学園祭」とも。
「和泉さん」
「ん?」
「学園祭あるんですか!?」
「あぁ。うん、ある」
「えー、早く言ってくださいよそういうことは」
「なんで」
言えないよ。
『一緒に行かないか』なんて。
「和泉さんも何かやるんですか?」
「いや、ぜんぶ断った」
「え、やる気ないですね」
誰の所為で。
「学園祭かぁ」
彼女が面白そうにチラシを見ている姿で、俺はもう彼女と一緒に回れると確信してたんだ。あとは少しきっかけを作ればいいだけだと思って。
「きっと楽しいんでしょうね」
「どうだろ」
「楽しいですよ、だって祭だし!」
ほんとうは楽しいだろうと思ってた。きみが来たら、きっと楽しい。だからこんなに遠まわしにでも誘う。
きみが来る学園祭に、抗いがたい魅力を感じたんだ。
「暇なら来ればいいよ」
この一言を言うためだけに、チラシの配置にすら頭を抱えてしまうくらい。
――――――――――そう、だったんだけど、
「………あー」
「ん?」
「すいません、明日は」
「………何か用事?」
「まぁ、そんなかんじです」
「……そうか」
現実はそんなものだった。
「ごめんなさい」
「いや、いい」
「でも」
「きみが謝る理由無いだろ」
「…………」
そんな顔をさせたかったんじゃないんだ。
彼女が帰ってからすごく後悔した。なんであんなチラシを置いといたんだろう。こんな余計な事さえしなければ彼女にあんな顔をさせずに済んだのに。
「…………はぁー」
自分が思ったよりも大きなため息が出て項垂れる。
彼女以上に落ち込んでいるのは俺かも知れない。
期待が大きすぎた。彼女と回る学園祭なんて想像しなきゃよかった。抗いがたい魅力には、抗うべきだったのに。
どうして彼女は絶対来るなんて思ったんだろう。
そして当日がきてしまった。
駄目だ気が乗らない。もう休もう。そう思っていたのだが。
けたたましく鳴るインターフォン。
俺は仕方なく出た。それがいけなかった。
彼女ではないことに気付いていたんだから出なければよかったのに(彼女はドアが開いていることを知っていてインターフォンを鳴らさない)出てしまった。
「…………うわ」
「いーずーみーくん」
「………備前」
「今日は学園祭だね」
「……知ってる」
「今日休もうとか思ってたね」
何故わかる。
「あの子来ないの?」
「来れない、らしい」
「(じゃあ美濃ちゃんも来ないなぁ…)残念だったな」
「別に」
「折角実行委員とかぜんぶ断ったのに意味ないじゃんかー。ただでさえ人数少ないのに逃げた奴がいて、酷い人手不足なのに」
「そうなのか?」
「らしいよ?」
「もしかしてお前」
「泣き落されて実行委員になった備前くんです」
「…………」
「だから暇なら一緒にやろうよ」
嫌だ。とは、なぜか口から出てこなかった。
もういいかと思ったんだ。
「………それもいいかもな」
「え、ほんと!」
「あぁ」
もういい。
なんだっていい。
彼女が来ないならぜんぶ一緒だから。さぼったって張りきったって頑張ったって。波に身を任せるよ。もう、いいじゃないか。
「………阿呆くさい」
なんでだろうなぁ。
すごくきみと行きたかったんだ。
行けないと知ってぜんぶどうでもよくなってしまうくらいに。
上り下りの対称性《前編》
(楽しい学園祭の始まり!)
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