本の虫と文字の虫とその周辺 (初めての方はカテゴリより、「はじめに」と「登場人物紹介」から)
知能犯と踊り狂う、夜の散歩道。
すごい更新率ですがちゃんと本業もやってるよ!(・∀・;)
宵闇アウトロー
すごい更新率ですがちゃんと本業もやってるよ!(・∀・;)
日がとっぷりと暮れて、夜が姿を現した。街頭やヘッドライトといった光がすべてぼやけて暗闇に溶け出す、ありきたりで不思議な夜。
そんな夜に彼女と2人歩くことになろうとは。
***
その日は新作の発売日だった。俺は前夜から次回作の案が浮かばないまま考えあぐねて、さっさと寝ればいいものを、あと少しという感覚に惑わされ(そして結局その感覚には裏切られ)そのまま夜が明けてしまった。
何も思いつかないまま布団に入ったのがスズメがさえずり出す朝の5時。
夢を見ないほど深く眠りに落ちたものの、正午を過ぎて、三時を過ぎて、さすがに寝るのにも飽きてきて、そういえば、今日はまだ会ってないなぁ、なんて、思った。
そう思ったときにたいていやってくる。
「買ってきましたよ和泉さん!」
俺の新作をひっさげて、それを嬉しそうに見せて、
「今から読みます」
「そうか」
「全部ここで読んで、感想も全部言って帰ります」
「そうか。……………え?」
ちょっと待て。今回の新作は、
前編・後編、同時発売で、大分、分厚かったと思うんだが。
かくして彼女は宣言通り、すべて読破して熱く感想を述べていった。
彼女が速読で良かったと思うが、それでも彼女が話し終えた(俺が止めた)ときには、時刻は夜の9時を回っていた。
「わ、もうこんな時間……!」
「怒られるんじゃないのか」
「大丈夫です。ちゃんと和泉さんちに寄るって言ってありますから」
「…………」
何が大丈夫なんだろう。
「外真っ暗だー」
俺が何か上着をと探し出してる間にも、彼女は靴を履き玄関先に出て、
「すいません遅くまで。では!」
「こら」
止めなければほんとうにそのまま一人で帰ってしまいそうだった。
送ってほしいとか、彼女はそういうことを言わない。
だから俺から申し出るしかない。
前、備前がJKがどうとか言っていたが、その通り紛れもなく彼女は女子高生であるから他と同等に危険があるわけで、だから、送るという義務がある。
「待ちなさい。送るから」
「え!」
「次のネタ探しに散歩に行くから。ついでに送る」
「わぁ」
素直に嬉しそうな顔することひとつ取っても、その意味をあれこれ考えてしまうんだ。自分から送ってほしいとか言ってこない理由だってきっとあるんじゃないかと考えてしまう。何を期待してるんだろう。
俺はすごく、知能犯に踊らされてる気になる。
夜独特の生ぬるい風を受けて、とぼとぼと歩いて行く。
やたらと後ろを歩きたがる彼女を隣に呼んでその距離を測った。
目算で20センチくらい。
当初より近づいたんだろうか、そもそも彼女が彼女なだけに最初から壁などなかったかのように思う。だとすれば進歩がない。
思い切りが足りないのは俺なのかやっぱり。
「今回のは格別に面白かったです」
さっき散々聞かせてくれたことをまた言ってくれる。
「心情がどんどん鮮明になってくんですよね。だから物語が活きてくる。和泉さん、また上手になったなぁ」
「褒め上手」
「いえいえそれほどでも。次は何を書くんですか?」
「………何かなぁ」
「恋愛ものとかどうですか!」
「却下」
「えー」
夜の静寂にけたたましく笑い声を鳴らす。夜に従順でない賑やかさ。
けれど雰囲気を壊さない程度に話しかけてくるので、ずっと意識してた。
「素敵だと思うんですけどね、恋愛小説」
「性に合ってない」
「そんなのわかりませんよ、書いてみなくちゃ」
「……そうは言ってもなぁ」
「きっと優しい」
「………」
ずっと意識してた。
「、」
ふと、後方に小さな負荷がかかる。後ろ目に確認すると彼女が俺の服の裾を掴んでいた。
「……なに」
「なんでもないですよ」
「そう」
「そうです」
でも彼女はその手を放さなかった。
彼女の位置はやっぱり後ろになった。
俺にもその手を振り払う理由がなかった。
なんで手じゃないんだろう。
「……………」
なんとも言えないことを考えてしまった。こんなことを考えてる時点で、俺はもう、駄目な気もする。
触れてもいない手が変な汗をかく。
彼女が手じゃなくて裾を掴んだことに、果たして理由などあるだろうか?
あるとしたら。あるとしたらなんだろう。
「…………」
"繋いだら離せなくなる"
そんな理由で彼女が服の裾を選んだのだとすれば、そんなに嬉しいことはない。
きっと違うけど。
っていうかそれって、俺が彼女の手を掴まない理由なのか?
ほら、自分の気持ちさえも明確にできなくて。
俺が恋愛小説を書かない理由はここにある。
書けるはずがない。
知能犯が何かを謀らなくたって俺はひとりへとへとになるまで踊るだろう。
「ここです!」
ぱっと彼女の手が裾から離れていく。小さな負荷がなくなって違和感。
後ろに倒れてしまいそうだ。くらくらしてる。
「ありがとうございました」
「じゃあね」
「おやすみさない」
「おやすみ」
最後に笑って、彼女は家に入っていく。途中に振り返って言うのだ。
「帰り道、ネタ見つかるといいですね!」
おやすみなさい、と彼女がもう一回言ってばたんとドアが閉じた。
「………ネタ?」
俺はそういう言い訳で彼女を送ったことを今思い出した。
さっきまで彼女が掴んでいた服の裾を見るとくたくたに萎れている。
また、彼女のせいで一着駄目にした。駄目にしたと言っても着続けるんだけれども。
知能犯に掴まれてくたくたに萎れた服。
知能犯に踊らされてくたくたの俺。
「帰り道で、ネタ探せって?」
さっき別れたばっかで?
無理だろ。
宵闇アウトロー
(次は手を繋ぎたいとか)
(手を離さなくてもいいようになるには、とか)
そんな夜に彼女と2人歩くことになろうとは。
***
その日は新作の発売日だった。俺は前夜から次回作の案が浮かばないまま考えあぐねて、さっさと寝ればいいものを、あと少しという感覚に惑わされ(そして結局その感覚には裏切られ)そのまま夜が明けてしまった。
何も思いつかないまま布団に入ったのがスズメがさえずり出す朝の5時。
夢を見ないほど深く眠りに落ちたものの、正午を過ぎて、三時を過ぎて、さすがに寝るのにも飽きてきて、そういえば、今日はまだ会ってないなぁ、なんて、思った。
そう思ったときにたいていやってくる。
「買ってきましたよ和泉さん!」
俺の新作をひっさげて、それを嬉しそうに見せて、
「今から読みます」
「そうか」
「全部ここで読んで、感想も全部言って帰ります」
「そうか。……………え?」
ちょっと待て。今回の新作は、
前編・後編、同時発売で、大分、分厚かったと思うんだが。
かくして彼女は宣言通り、すべて読破して熱く感想を述べていった。
彼女が速読で良かったと思うが、それでも彼女が話し終えた(俺が止めた)ときには、時刻は夜の9時を回っていた。
「わ、もうこんな時間……!」
「怒られるんじゃないのか」
「大丈夫です。ちゃんと和泉さんちに寄るって言ってありますから」
「…………」
何が大丈夫なんだろう。
「外真っ暗だー」
俺が何か上着をと探し出してる間にも、彼女は靴を履き玄関先に出て、
「すいません遅くまで。では!」
「こら」
止めなければほんとうにそのまま一人で帰ってしまいそうだった。
送ってほしいとか、彼女はそういうことを言わない。
だから俺から申し出るしかない。
前、備前がJKがどうとか言っていたが、その通り紛れもなく彼女は女子高生であるから他と同等に危険があるわけで、だから、送るという義務がある。
「待ちなさい。送るから」
「え!」
「次のネタ探しに散歩に行くから。ついでに送る」
「わぁ」
素直に嬉しそうな顔することひとつ取っても、その意味をあれこれ考えてしまうんだ。自分から送ってほしいとか言ってこない理由だってきっとあるんじゃないかと考えてしまう。何を期待してるんだろう。
俺はすごく、知能犯に踊らされてる気になる。
夜独特の生ぬるい風を受けて、とぼとぼと歩いて行く。
やたらと後ろを歩きたがる彼女を隣に呼んでその距離を測った。
目算で20センチくらい。
当初より近づいたんだろうか、そもそも彼女が彼女なだけに最初から壁などなかったかのように思う。だとすれば進歩がない。
思い切りが足りないのは俺なのかやっぱり。
「今回のは格別に面白かったです」
さっき散々聞かせてくれたことをまた言ってくれる。
「心情がどんどん鮮明になってくんですよね。だから物語が活きてくる。和泉さん、また上手になったなぁ」
「褒め上手」
「いえいえそれほどでも。次は何を書くんですか?」
「………何かなぁ」
「恋愛ものとかどうですか!」
「却下」
「えー」
夜の静寂にけたたましく笑い声を鳴らす。夜に従順でない賑やかさ。
けれど雰囲気を壊さない程度に話しかけてくるので、ずっと意識してた。
「素敵だと思うんですけどね、恋愛小説」
「性に合ってない」
「そんなのわかりませんよ、書いてみなくちゃ」
「……そうは言ってもなぁ」
「きっと優しい」
「………」
ずっと意識してた。
「、」
ふと、後方に小さな負荷がかかる。後ろ目に確認すると彼女が俺の服の裾を掴んでいた。
「……なに」
「なんでもないですよ」
「そう」
「そうです」
でも彼女はその手を放さなかった。
彼女の位置はやっぱり後ろになった。
俺にもその手を振り払う理由がなかった。
なんで手じゃないんだろう。
「……………」
なんとも言えないことを考えてしまった。こんなことを考えてる時点で、俺はもう、駄目な気もする。
触れてもいない手が変な汗をかく。
彼女が手じゃなくて裾を掴んだことに、果たして理由などあるだろうか?
あるとしたら。あるとしたらなんだろう。
「…………」
"繋いだら離せなくなる"
そんな理由で彼女が服の裾を選んだのだとすれば、そんなに嬉しいことはない。
きっと違うけど。
っていうかそれって、俺が彼女の手を掴まない理由なのか?
ほら、自分の気持ちさえも明確にできなくて。
俺が恋愛小説を書かない理由はここにある。
書けるはずがない。
知能犯が何かを謀らなくたって俺はひとりへとへとになるまで踊るだろう。
「ここです!」
ぱっと彼女の手が裾から離れていく。小さな負荷がなくなって違和感。
後ろに倒れてしまいそうだ。くらくらしてる。
「ありがとうございました」
「じゃあね」
「おやすみさない」
「おやすみ」
最後に笑って、彼女は家に入っていく。途中に振り返って言うのだ。
「帰り道、ネタ見つかるといいですね!」
おやすみなさい、と彼女がもう一回言ってばたんとドアが閉じた。
「………ネタ?」
俺はそういう言い訳で彼女を送ったことを今思い出した。
さっきまで彼女が掴んでいた服の裾を見るとくたくたに萎れている。
また、彼女のせいで一着駄目にした。駄目にしたと言っても着続けるんだけれども。
知能犯に掴まれてくたくたに萎れた服。
知能犯に踊らされてくたくたの俺。
「帰り道で、ネタ探せって?」
さっき別れたばっかで?
無理だろ。
宵闇アウトロー
(次は手を繋ぎたいとか)
(手を離さなくてもいいようになるには、とか)
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